外国人に伝わる日本語「やさしい日本語」って?

外国人と日本語を話すとき、「言いたいことがうまく伝わらない」という経験をしたことはありませんか。外国人にわかりやすいように、ゆっくり、はっきり話しているつもりなのに、なぜかうまく伝わらない。これは、仕事で外国人と接する機会のある人だったら、一度は経験したことがあるのではないでしょうか。特に社内に外国人がいる場合、業務内容など重要なやりとりも発生します。そこで日本語がうまく伝わらないと、お互いの仕事にも支障が出てしまいます。
では、どのようにすれば外国人とスムーズにコミュニケーションが取れるでしょうか。彼らの母語を学んだり、あるいは通訳を雇ったり。どれもあまり現実的ではありませんよね。
今回は、このような「外国人に日本語が伝わらない」問題を解決すべく、「やさしい日本語」について解説します。「やさしい日本語」とは、“普通の日本語よりも易しく、外国人に伝わりやすい日本語”のことです。特に仕事で外国人と関わる方にとって、覚えていて損はない内容です。

【やさしい日本語とは】

「やさしい日本語」が生まれたきっかけは、1995年に発生した阪神・淡路大震災です。阪神・淡路大震災では、日本人の死亡率に比べ、外国人の死亡率は約2倍、負傷率はさらに高かったそうです。これは圧倒的な「情報不足」によるもので、日本語が堪能でない外国人は、震災時に日本語で情報を取得するのが困難だったからと言われています。
そもそも、日本に住んでいる外国人の日本語能力はどの程度でしょうか。2017年の公益財団法人 人権教育啓発推進センターによる調査では、在留外国人の55.9%が、「日本人と同程度」または「仕事で使えるレベル」ということがわかっています。そして32.3%は「日常会話程度」、11.8%が「ほとんどできない」という結果になっています。つまり、日本に住んでいるからといって、高い日本語能力があるとは限らないのです。

そこで、言語学の専門家たちによる研究の末、多くの外国人に緊急時の情報を伝えるためには、【英語でも中国語でもなく、日本語をやさしくすることだ】と考えられました。それが「やさしい日本語」誕生のきっかけです。このやさしい日本語誕生以降、自治体で発信される文章にふりがながつけられたり、NHKが外国人向けに、やさしい日本語で書かれたニュースを発信したりしています。

※参照「NEWS WEB EASY

 

 

【外国人と話すということ】

では、本題に入る前に、「外国語を話すということ」について考えてみましょう。普段、日本語以外の外国語を使用している人、あるいは外国語を勉強中の人には理解しやすいものだと思いますが、この「外国語を話す」というのは、想像以上に疲れたり、緊張したり、ストレスを感じたりするものです。

中学校から最低でも6年間英語を学んできた私たちですが、突然欧米の社会に放り込まれたらどうでしょう。自信を持って英語を話し、不便なく一人で生活することができるしょうか。店の予約やネットの問い合わせ、役所の手続きなど、母語では当たり前にできていたことにも時間がかかると思いませんか。
このように、日本語を母語とする私たちが日本語を使用するのと、日本語を外国語として使用する外国人とでは、エネルギーの消費がまるで違います。外国人と話す際、私たちが率先して日本語をコントロールする「配慮」が大切です。まずはこのことを念頭に置き、やさしい日本語を学んでいきましょう。

 

【知っておきたい日本語の特徴】

きっと多くの人が、日本語は難しい言語であることをなんとなく知っていると思います。以下はアメリカの国務省により発表された「外国語習得難易度ランキング」です。こちらは英語母語話者から見た外国語になりますが、色が濃くなるにつれて難易度が高いとされています。この中で、日本語は最も難易度が高い言語とされていることがわかります。

では日本語は具体的にどんなところが難しいか、理由を挙げることができますか。「漢字があるから」「文字が多いから」というのは有名な話ですが、ここでは日本語の難しさをより具体的に説明していきます。

漢字

まずは何といっても漢字です。日本の常用漢字、つまり日常生活で必要な漢字は2000字以上もあって、ただでさえ記号のような漢字を習得するのは容易ではありません。さらに漢字には音読みと訓読みなど、一つの漢字に複数の読み方があることも多いです。「加工・書こう・下降」などの同音異義語も多く存在するので、外国人にとって最大の難関だと言えます。

 

曖昧さ

普段の日本語の会話を思い出してみると、頻繁に主語を省略することに気が付きませんか。例えば「これチェックしたから送っておいて」など。これは誰がチェックをして、誰に送ってもらいたいのか、文だけを聞くと非常に曖昧ですよね。
他にも、日本人は何か断る際に「ちょっと難しいかも」と言ったり、後ろ向きな答えの際に「考えておきます」と言ったり、断言を避ける傾向にあります。これは日本人の文化的背景が大いに関係しているので、特に外国人にとっては非常に理解しにくい部分です。このような曖昧さを理解できるようになるには、日本語がもちろん、日本人特有の空気感を理解する必要があります。

 

カタカナ語

所謂『外来語』などとも言われているカタカナ語ですが、これらは英語の言葉だから外国人にとってわかりやすいのでは?と思う方も多いのではないでしょうか。
しかし、このカタカナ語、実は日本ではフランス語やドイツ語の言葉も多く存在しています。さらには「コンセント」(英語では”Outlet”)や、「マフラー」(英語では”Scarf”)といった『和製英語』が多いのも特徴です。
他にも、「テーマ」は英語では「スィーム」と発音するなど、日本風の発音に変換されているケースも非常に多いです。つまり外来語だからといって、外国人に伝わりやすいというわけではないのです。

 

オノマトペ

「擬音語」や「擬態語」とも言われるオノマトペですが、日本語のオノマトペは4000〜5000個もあると言われていて、他国に比べても非常に多いのが特徴です。用途によっては便利なのですが、「ツルツル」「ツヤツヤ」などの微妙な違いを汲み取るのは簡単ではありません。
他にも「ハキハキして」「バタバタしてました」など、日本人は日常的にオノマトペを使っているので、その意味を知らないとコミュニケーションにも支障が出てきます。

 

複雑な敬語

特に、仕事で日本語を使用する外国人を苦しめているのが敬語です。
敬語は日本人にとっても難しいので、これは納得ですね。外国人が日本語を学ぶ教科書には、一般的に「丁寧語」という「です・ます調」が使われています。
しかし、仕事で使われる敬語は、丁寧語・尊敬語・謙譲語と種類が多い上に、これを使いこなすには、上下関係などの日本の文化的な面も理解しておく必要があり、非常に難易度が高いものだと言えます。
反対に、年下相手にはタメ口を話すこともあり、教科書で学んだ丁寧語と、敬語、そしてタメ口の違いに戸惑う外国人も少なくありません。

【 やさしい日本語 を話す】

基本的な「日本語の難しさ」はわかりましたか。普段使っている日本語の見方が少し変わったのではないでしょうか。まずは日本語の仕組みを知ることで、外国人と日本語を話す際の意識にも繋がります。
では、いよいよ実際のやさしい日本語を学んでみましょう。

今回は、「やさしい日本語」を話すための、3つの要素を解説していきます。

 

短文で話す

まず、以下の文を見てください。

– 昨日佐藤さんに会ったんだけど、忙しそうだった!
こちらの文、日本人にとってはごく自然で、よくある表現だと思います。
しかし、この文には、①昨日佐藤さんに会った ②忙しそうだったという2つの情報が入っています。まずは、これをひとつずつに分けて話してみましょう。

– 昨日佐藤さんに会った。忙しそうだった。
これだけです。「会ったんだけど」の接続部分がなくなるだけで、なんだかシンプルになりますよね。

ではもうひとつ
– 駅に着いたら、電話してください。
一見簡単な文ですが、もっと簡潔にできますよね。

– 駅に着きます。電話してください。
つまり、文と文を接続している部分を、ハサミでちょきっと切るようなイメージです。

では、もう少しレベルアップして、形容詞で名詞を修飾する文を見てみます。
– あの大きなカバンを持った男性が見えますか。

ここではまず最も伝えたい部分を言って、それから付随する情報を追加します。
– あの男性が見えますか。大きなカバンを持っています。
ここでは、「あの男性が見えるか」と言うのが最も伝えたい部分です。そこに、男性をより詳細に説明する情報を付け足します。
どうですか。文が短くなって、簡単になりましたよね。このように文を短く分けることは、やさしい日本語の基本中の基本です。

 

です・ますで話す

先ほど、外国人が日本語を勉強するときは、「です・ます調」から学ぶのが一般的だと話しました。そのため、日本語のタメ口は非常に難しく聞こえてしまいますし、日本人があえて丁寧に話すような遠回しな敬語表現も、逆に難易度を上げているのです。
また、私たちが普段話す日本語の語尾は、意外と「です・ます」で終わっていないのです。「〜なんですよね」や、「〜かも」など、曖昧に終わらせていることも多いと思いませんか。

そこで、語尾を基本的に「です・ます」で終わらせることを意識してみてください。「〜てください」という依頼の表現は、比較的簡単なので使っても大丈夫です。

– 佐藤さん休みなので。 → 佐藤さんは休みです
– 電車が遅れちゃったんですよね。 → 電車が遅れました
– そこの書類捨てといて。 → そこの書類を捨ててください
– 田中さんどこか知ってる? → 田中さんはどこですか。知っていますか
多少ニュアンスが変わってしまう部分もありますが、このように「です・ます」で話していれば外国人が混乱するようなことはなくなるでしょう。日本人にとっては、このように言い切っている形が少し不自然に感じるかもしれませんが、こちらもやさしい日本語の基本です。

 

和語で話す

まず、以下で漢語と和語の違いを見てみましょう。
漢語:起床 和語:起きます
漢語:開始 和語:始めます
漢語:調査 和語:調べます
漢字のみで作られた言葉を「漢語」と言います。一方で、漢語を和語にしてみると、漢字が減り、より外国人にわかりやすく伝えることができます。

例えば、
書類を記入してください。 → 書類を書いてください。
「記入」という漢語を、「書いて」という和語の動詞に変換しました。日本人から見れば些細な違いではありますが、外国人にとっては、理解できるかできないか、大きな分かれ道になることは間違いありません。

飲酒の習慣がありますか。 → よく  お酒を飲みますか。
こちらは、「飲酒」という漢語を、「お酒を飲みます」と言い換えました。そして「習慣」は「よく」という副詞に変換しました。これだけでかなり難易度が下がるのがわかると思います。
この漢語→和語の変換は、一見難しそうですが、コツを掴めば簡単です。

 

その他:オノマトペ・敬語

他にもやさしい日本語を話す際に気をつけられることは多くあります。
例えば、先ほど説明したオノマトペも
バタバタしてました。 → 忙しかったです。
と変換することができます。

敬語については、少しだけ丁寧度を落としてみましょう。
10時にお越しください。 → 10時に来てください
お名前伺ってもいいですか。 → 名前なんですか
礼儀正しい日本人が使う敬語も、これだけで易しくすることができます。

 

【まとめ】

いかがでしたか。
やさしい日本語への変換は、そこまで難しい知識では必要ありません。むしろ日本語の難しさを理解していれば、自然に変換できるようになっていきます。
文で伝える場合にはイラストを入れたり、話す際にジェスチャーを大きくしたりするもの大事な要素です。決まったルールを覚えるよりも、その場の相手に合わせて、柔軟に伝え方を工夫することが最も重要です。

このやさしい日本語がより普及していくことで、少しずつ外国人に歩み寄れる社会になっていくのではないでしょうか。まずは身近な外国人の方と話すとき、今回のやさしい日本語の基礎を思い出してみてください。

 

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