近年、人手不足の解消に向け、外国人材を採用する企業が増えています。昨今、多くの企業で雇用されている特定技能人材や、2027年から施行される予定の新たな在留資格「育成就労」で在留する育成就労人材に注目が集まっています。
特定技能制度や育成就労制度では、外国人材に求める日本語能力を「A1相当」「A2相当」のような形で定義しています。このように、A1~C2までの6段階のレベルで日本語能力を表す方法は日本語教育参照枠に準拠しており、一般にCEFR(セファール)レベルと呼ばれます。
2025年12月より、日本語能力試験(以降、「JLPT」)でもCEFRレベル参考表示が取り入れられる予定となっています。今回は、JLPTやCEFR、日本語教育参照枠の概要について紹介したうえで、JLPTのCEFRレベル参考表示について企業が理解すべきポイントを解説します。
JLPTのCEFRレベル参考表示とは
JLPTのCEFR(セファール)レベル参考表示とは、JLPTの結果を日本語教育参照枠におけるCEFRレベルにあてはめた場合、どのくらいのレベルになるのかを参考として表示するものです。
日本語教育参照枠におけるCEFRレベルは、政府や関係省庁などを中心に従来より活用されてきました。特定技能制度や、2027年より施行予定の育成就労制度においても、CEFRレベルを用いて日本語能力を定義しています。
日本語試験には、JLPTの他に、国際交流基金日本語基礎テスト(以降、「JFT-Basic」)や実用日本語検定(以降、「J.TEST」)など、さまざまな種類があります。これらの日本語試験の評価に日本語教育参照枠のCEFRレベルを対応させることで、信頼性の高い統一的な指標で日本語能力を比較参照できるようになります。
2024年10月、国際交流基金によってJLPTとCEFRレベルを紐づける「基準設計」が実施されました。JLPTの試験でCEFRレベル参考表示が導入されるのは、2025年12月の試験からを予定しています。
ここでは、JLPTやCEFR、日本語教育参照枠の概要を紹介していきます。
JLPTとは
JLPTとは、国際交流基金と日本国際教育協会が運営している、日本語を母語としない人の日本語能力を測定・認定する試験のことです。現在、世界最大規模の日本語の試験として知られており、2023年には92カ国から1,481,023名もの応募者が集まっています。
JLPTでは、「言語知識(文字・語彙・文法)」「読解」「聴解」という3種類の言語能力を測定する試験を実施します。また、難易度に応じて、試験はN5〜N1までの5段階のレベルに分かれています。
CEFRとは
CEFR(Common European Framework of Reference for Languages)とは、ヨーロッパ言語共通参照枠の略称であり、さまざまな言語資格を承認する根拠として活用されている枠組みのことです。
元々、CEFRはヨーロッパ地域における言語学習・教授・評価の場でレベルを共有するための枠組みとして、2001年に欧州評議会によって発表されました。現在では、国境や言語の枠を越えて、教育・就労の流動性を促進する指標として、国際的に評価されています。
CEFRでは、難易度別にA1~C2までの6段階のレベルで、学習者の言語能力を測る指標を設けています。また、学習者の熟練度に応じた言語能力記述文(以降、「Can doリスト」)を用意し、その言語を用いてどのような行動ができるのかを示していることも特徴です。
日本語教育参照枠とは
日本語教育参照枠とは、CEFRを参考に作成された枠組みであり、日本語学習者が自らの日本語の習熟度を客観的に把握したり、具体的な学習目標を立て自律学習を進めたりするための指標のことです。2021年に文化庁の文化審議会国語分科会によって策定されました。日本語版のCEFRともいえます。
日本語教育参照枠におけるCEFRレベルでは、A1~C2までの6段階のレベルで学習者の日本語能力を測ることができます。また、以下の要素に応じたCan doリストが設けられています。
6段階のCEFRレベル | A1~C2 |
5つの言語行動 | ・聞くこと ・読むこと ・話すこと(やり取り) ・話すこと(発表) ・書くこと |
4つの能力 | ・一般能力 ・コミュニケーション言語能力 ・コミュニケーション言語活動能力 ・コミュニケーション言語方略能力 |
参照元:日本語教育の参照枠 報告(文化庁 文化審議会国語分科会)
JLPTとCEFRレベルの対応関係
JLPTとCEFRレベルはどのように対応しているのでしょうか?JLPTとCEFRレベルの対応関係としては、JLPTの総合得点に応じてCEFRレベルが設定される仕組みとなっています。
具体的な仕組みは下図のとおりです。縦軸がJLPTの総合得点、横軸がJLPTの5つのレベルとなっています。

※画像引用元:CEFRレベル参考表示(日本語能力試験 JLPT)
ここでは、JLPTとCEFRレベルの対応関係について、ポイントを解説します。
CEFRレベルは合格者のみに表示される
JLPTの試験に合格していない場合、CEFRレベルは表示されません。JLPTでは、試験の合格基準を次のように設定しています。
- 総合得点が合格点を超えているか
- 「言語知識(文字・語彙・文法)」「読解」「聴解」の3種類の得点区分のうち、すべての得点区分で合格基準点を超えているか
受験者の総合得点が合格点を超えていた場合でも、合格基準点未満となった得点区分が一つでもあれば、試験に合格することはできません。同様に、総合得点が合格点を超えていた場合でも、試験に合格していなければ、CEFRレベルも表示されない仕組みとなっています。
総合得点に応じてCEFRレベルが定義される
JLPTの総合得点に応じてCEFRレベルが設定されていることもポイントです。具体的には、次のように定義されています。N3〜N1については、総合得点によってCEFRレベルが異なる場合があるため注意しましょう。
レベル | CEFR | |
N5 | 総合得点80点以上:A1レベル | |
N4 | 総合得点90点以上:A2レベル | |
N3 | 総合得点95点以上103点以下:A2レベル | 104点以上:B1レベル |
N2 | 総合得点90点以上111点以下:B1レベル | 112点以上:B2レベル |
N1 | 総合得点100点以上141点以下:B2レベル | 142点以上:C1レベル |
なお、「言語知識」「読解」「聴解」など、得点区分ごとのCEFRレベルは提供できない仕組みになっています。
JLPTで測定できる日本語能力は限定的である
JLPTで測定できる日本語能力は限定的であり、CEFRで定義しているすべての能力を測ることはできません。
JLPTで測定している日本語能力は「言語知識」「読解」「聴解」の3項目です。これらは、CEFRで定義している日本語能力において「コミュニケーション言語能力」のうち「言語能力」、「コミュニケーション言語活動能力」のうち「需要活動能力」に対応しています。詳しくは下図のとおりです。

画像引用元:CEFR-CV 言語能力総観図(日本語能力試験 JLPT)
CEFRで定義している「コミュニケーション言語方略能力」や、「コミュニケーション言語活動能力」のうち「やり取りの活動」といった能力を測ることはできないため注意しましょう。
また、CEFRレベルはA1~C2まで設定されているものの、JLPTの試験ではA1~C1までのレベルしか測れないこともポイントです。
CEFRレベル参考表示の追加に伴うJLPTの変更点・変更しない点
CEFRレベル参考表示の追加に伴い、JLPTにはどのような変更が生じるのでしょうか?また、従来のまま維持される点にはどのようなものがあるのでしょうか?ここでは、CEFRレベル参考表示の導入に伴うJLPTの変更点と、変更されない点について解説します。
変更点:成績書類の書式
CEFRレベル参考表示の追加に伴う大きな変更点は成績書類の書式です。
2025年12月以降、合格者の成績書類には判定されたCEFRレベルが追記される予定となっています。なお、不合格者には「*」が表示される予定です。

※画像引用元:CEFRレベル参考表示(日本語能力試験 JLPT)(図中の「パーセンタイル順位」の表示は海外での受験時に限る)
変更しない点:JLPTの試験内容
CEFRレベル参考表示が導入されても、JLPTの試験内容そのものは変わりません。また、今後に向けて、CEFRで定義している言語能力に合わせる形で「話す」「書く」といった試験項目が追加される予定はありません。
以上の点から、今回の導入に伴ってJLPTの試験対策の内容を変える必要はないといえます。
JLPTの試験合格には継続的な日本語学習が重要です。「外国人材のJLPT対策をうまく支援できていない」「どのような教材を活用すべきかわからない」とお困りの企業担当者の方は、ぜひ明光グローバルの外国人向けオンライン日本語学習ツール「Japany」をご活用ください。JLPT N5~N1までの各レベルに対応した動画教材が取り揃えられており、外国人材の学習進度に合わせて効率的に学ぶことが可能です。
JLPTにCEFRレベル参考表示が追加されるメリット
企業にとって、JLPTにCEFRレベル参考表示が追加されることにはどのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、企業にとって、JLPTにCEFRレベル参考表示が追加されるメリットについて解説します。
- 共通の指標で日本語能力を比較参照できる
- 日本語教育参照枠のCan doリストを活用できる
共通の指標で日本語能力を比較参照できる
企業にとってのメリットの一つが、共通の指標で日本語能力を比較参照できる点です。
これまでは、JLPTやJFT-Basicといった異なる日本語試験を比較するための共通の指標がなかったため、受験者同士の日本語能力を客観的に比較することが難しいという課題がありました。
しかし、CEFRレベルの参考表示が導入されることで、外国人求職者の日本語力をよりスムーズに比較できるようになり、採用選考の場面でも有効に活用できると考えられます。
日本語教育参照枠のCan doリストを活用できる
日本語教育参照枠では、CEFRレベルに応じたCan doリストを公表しています。具体的には、次のようなものが挙げられます。
A2レベル(理解すること「聞くこと」)
- A2.2【包括的な聴解】★もし、はっきりとゆっくりとした発音ならば、具体的な必要性を満たすことが可能な程度に理解できる。
- A2.1【包括的な聴解】 もし、発話がはっきりとゆっくりとした発音ならば、最も直接的な優先事項の領域(例、ごく基本的な個人や家族の情報、買い物、その地域の地理、仕事・雇用)に関連した句や表現が理解できる。
- A2【他の話者同士の対話の理解】★ゆっくりと、はっきりとした議論なら、自分の周りで議論されている話題は大方分かる。
- A2【広報・アナウンスや指示を聞くこと】★短い、はっきりとした、簡単なメッセージやアナウンスの要点は聞き取れる。
- A2【広報・アナウンスや指示を聞くこと】徒歩や公共交通機関を使ってXからYまでどうやって行くのかという簡単な説明は理解できる。
- A2【音声メディアや録音を聞くこと】ゆっくりとはっきりと話されれば、予測可能な日常の事柄に関する、短い録音の一節を理解し、必要な情報を取り出すことができる。
- A2.2【テレビや映画を見ること】映像と実況説明がほとんど重なるならば、出来事や事故を伝えるテレビのニュース番組の要点が分かる。
- A2.1【テレビや映画を見ること】事実報道のテレビニュースの話題が変われば、そのことに気が付き、内容を大まかに理解できる。
参照元:日本語教育の参照枠 報告(文化庁 文化審議会国語分科会)
※★印は量的検証による困難度が適正であると判断された代表項目。A2・B1・B2レベルでは、1つのレベルを熟達度別に分割して示すことがある。上記の場合、A2の標準レベルよりやや高度な能力をA2.1、さらに高度な能力をA2.2と表現している。
このように、レベルに応じた具体的な能力がCan doリストを活用することで、外国人材の日本語能力を推察することが可能になります。
JLPTへのCEFRレベル参考表示追加に伴うポイント・注意点
JLPTへのCEFRレベル参考表示追加に伴って、企業が気をつけるべきポイントはあるのでしょうか?ここでは、JLPTにCEFRレベル参考表示が追加されることに伴い、企業側が理解しておきたいポイント・注意点について解説します。
- 2025年7月以前の成績証明書にはCEFRレベル参考表示は追記されない
- 外国人材の「話す」「書く」能力を鍛えるには別途対策が必要
2025年7月以前の成績証明書にはCEFRレベル参考表示を追記されない
2025年3月時点では、CEFRレベル参考表示の導入開始は2025年12月からと公表されています。そのため、2025年7月以前に開催された試験の成績証明書にはCEFRレベル参考表示を追記できない点には注意が必要です。
また、2025年7月以前の受験の成績証明書の複製版を発行した場合も、CEFRレベルは参考表示されません。ただし、過去の試験においても、総合得点とCEFRレベルの対応方針は一致するため、総合得点からの算出は可能となっています。
今後、外国人材向けの人事評価制度を設計するにあたり、CEFRレベルを評価項目の一つとして取り入れる企業が増えていくかもしれません。2025年7月以前の成績証明書の取扱方針についても検討するとい良いでしょう。
外国人材の「話す」「書く」能力を鍛えるには別途対策が必要
CEFRレベル参考表示の導入以降も、JLPTの試験内容やカリキュラムは変更されません。CEFRで定義している「話す」「書く」などの試験も追加される予定はないため、雇用している外国人材のスピーキング能力やライティング能力を伸ばすには別途対策が必要となります。
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まとめ
JLPTにCEFRレベル参考表示が追加されると、企業の選考や教育、評価などの場面で有効に活用できるようになります。一方で、「CEFRレベルをどうやって活用すれば良いのかわからない」とお悩みの方も多いかと思います。
明光グローバルは、外国人材の採用・教育・定着をワンストップで支援しています。日本語教育参照枠やCEFRに関するより詳しい情報が欲しい方や、外国人材の日本語教育にお悩みの方は、ぜひお気軽に明光グローバルまでお問い合わせください。