まずは英語学習を思い出してみましょう
英語を学んだ際、多くの人が中学1年生から英語を習い始めたと思います。
アルファベットの習得から始まり、「This is a pen」、「I am Tanaka」などの基礎的な文法から学び始めました。
英語学習では、「Cars」、「Houses」などの日本語にはない複数形の概念に戸惑った人も多いですよね。また、たくさんの動詞を覚える必要もありました。動詞と同時に、「at」や「on」、「in」などの助詞が出てきたり、【eat-ate-eaten】といった現在形・過去形・現在完了形の3つの活用に苦労したり、日本語とは違う言語を学ぶ難しさを体感した人も多いのではないでしょうか。
今でこそ、YouTubeやNetflixで英語のドラマや音楽に触れることが簡単になりましたが、10年以上前にはそのようなツールはなかったので、中学校で初めて英語に触れた人も少なくなかったと思います。まして母語のように赤ちゃんの頃から触れているわけではないので、ルールを理解しつつ膨大な数の語彙などを暗記する必要があり、ツールというよりも一教科として学んでいた方が多いのではないでしょうか。
日本語を学ぶー文字
では、英語学習の経験を少し思い出していただいたところで、早速日本語学習のプロセスを見ていきましょう。
まずはなんといっても「ひらがな」と「カタカナ」です。日本語を学ぶためには、46個のひらがなに加え、同じ数のカタカナも覚えなければなりません。カタカナの優先度は低いようにも思えますが、外国人の名前はほとんどカタカナで表記するので、自分の名前や国名を書くためにも、初期の段階でカタカナを習得する必要があります。
漢字については、日本の日常生活で使用頻度が高いと定められている『常用漢字』が2000字ほどあります。そのため、日本語学習者にとっても漢字の勉強は必須なのです。
漢字の学び方については、みなさんも小学校の頃の記憶があると思いますが、漢字を何度も書いたり、自分でテストをしたり、独自の方法で覚えていくしかありません。
漢字学習では、音読みや訓読みなどの複数の読み方に苦労する外国人も多く、「どう見ても記号にしか見えない」と、漢字アレルギーを発症する方も多くいます。そもそも100個ほどのひらがなカタカナに加え、まるで無限に存在する漢字を学ばなければならないのは、本当に大変なことですよね。
では、ここで、文字について少し補足です。
世界の言語は、「アルファベットでできた言語」と「独自の文字でできた言語」の2種類に分けることができます。
ご存知の通り、日本語や中国語、韓国語、タイ語などは後者ですよね。前者は、主に欧米や南米、北欧の言語にあたります。それに加えて、インドネシア語やベトナム語、タガログ語などのアジアの国もアルファベットを使用する言語があります。
つまり、このようなアルファベットの言語を学ぶ場合は、新たに文字を学ぶ必要がありません。それだけで学ぶハードルが下がる気もしますよね。
日本語を学ぶー文法
日本語を学ぶ際は、もちろん最初は基本的なあいさつから学びます。
そして、多くの日本語の教科書では、「わたしはスミスです」、「彼は学生です」のような基礎的な文法を学び、まずは基本的な自己紹介を習得します。
では具体的に、日本語の教科書の最も初歩的な文型を見てみましょう。
-ステップ1:名詞の文
わたしは田中です。
これは辞書じゃありません。
ここは教室ですか。
-ステップ2:動詞の文
明日スーパーへ行きます。
昨日勉強しました。
わたしはコーヒーを飲みません。
このように、まずは基礎的な名詞の文を学んでから、次の段階で動詞の文を学びます。
「これ・それ・あれ」、「ここ・そこ・あそこ」などの指示語は、英語を学んだ際にも序盤に出てきたのを覚えていますか。このような文法を学びながら、同時に時間を表す語彙(明日・昨日・今週)や、場所を表す語彙など、文法に則した語彙を覚えていきます。
ここまで、基本的には英語学習と同じです。もちろん、これからたくさんの文法を覚える必要があるので、このような基礎の部分は非常に重要です。
では続いて、日本語の「助詞」、「動詞」、「形容詞」に分けて、具体的な日本語学習のプロセスを見ていきましょう。
日本語を学ぶー助詞
日本語を勉強する外国人の多くが苦労するのが、日本語の『助詞』です。
助詞は「これは何ですか」「雨が降ります」など、名詞につけて使用するものです。時には、「明日も行きます」「水曜と木曜」など、言葉を繋げながら文の意味を補足するなど、大事な役割を担っているのが助詞です。
以下は、日本語の初級段階で学ぶ基本的な助詞一覧になります。
対象を表す「を」:水を飲みます
方向を表す「へ」:会社へ行きます
動作の場所を表す「で」:家で食べます
存在の場所を表す「に」:ここにあります
起点を表す「を」「から」:学校を/から出ます
到着点を表す「に」:駅に着きました
時間を表す「から」「まで」「に」:3時から4時までバイトですから、5時に会いましょう
原因と手段を表す「で」:雨で中止です/フォークで食べます
動作の相手を表す「に」:母に花をあげます
並列を表す「と」:母と姉とカフェに行きます
こうやって見てみると、意外と種類が多いと思いませんか。とはいえ、日本人なら普段から何も意識せずに使い分けているので、わざわざ助詞の意味を考えることはありませんよね。
韓国語やトルコ語、モンゴル語などは日本語の助詞に相当するものがありますが、助詞という概念がない言語を母語とする人にとっては、この助詞を使い分けるのはとても難しいです。
例えば、「私が行きます」と「私は行きます」の違いは?と聞かれても、すぐに答えられるでしょうか。日本人は微妙なニュアンスによって助詞を使い分けています。この微妙な使い分けは、日本語上級者の外国人であっても難しく感じるそうです。
日本語を学ぶー形容詞
英語の学習と大きく変わるのが、日本語の形容詞です。
ここでは、「cold = さむい」という形容詞を例に説明してみましょう。
英語では、「It is cold」、「It was cold」、「It is not cold」など、現在形や過去形、否定形でも「cold」という形容詞自体には変化がないことがわかりますね。そのため、ただ形容詞とその意味を覚えてしまえば、それほど難しくはありません。
一方で日本語の形容詞は少し違います。
【さむい】-現在
【さむくない】-否定
【さむかった】-過去
【さむくなかった】-過去否定
このように、形容詞「さむい」自体が変化していることがわかります。
また、こちらはどうでしょうか。
【まじめ】-現在
【まじめじゃない】-否定
【まじめだった】-過去
【まじめじゃなかった】-過去否定
先ほどの「さむい」とは少し変化が違うことがわかりますか。
実は日本語の形容詞には2種類あり、「さむい」のように‘い’で終わる形容詞を「い形容詞」、
「まじめ」や「しずか」など、‘い’以外の音で終わるものを「な形容詞」と言います。
「な形容詞」は、名詞を修飾した際に、「まじめな人」「しずかな人」となることから、「な形容詞」と呼ばれています。しかもこの形容詞には例外も多く、「きれい」「きらい」などは‘い’で終わるにもかかわらず、「な形容詞」に分類されます。
日本語学習者の多くが、日本語の勉強を始めたばかりのときに形容詞に苦戦する理由がわかりましたか。
日本語を学ぶー動詞
冒頭で、英語の動詞の活用について紹介しました。【eat-ate-eaten】や【write-wrote-written】などの現在形・過去形・現在完了形のことです。学生時代、これらを暗記する際に苦労した記憶があると思いますが、実は、日本語の動詞の活用はさらに複雑です。
今回は、「パンをかう(買う)」という基本文を元に、以下を見てみましょう。
・パンをかう-辞書形
・パンをかいます-ます形
・パンをかった-た形
・パンをかわない-ない形
・パンをかって-て形
・パンをかえます-可能形
・パンをかわれた-受身形
単純に語尾が変わるだけでなく、小さい「っ」が入っているものもあったり、なんだか複雑な変化に見えませんか。しかもこれらは動詞の活用のほんの一部で、実際には13種類ほどの活用があります。これらをしっかりと覚えた上で、さまざまな日本語の文法が使えるようになるのです。
例えば、禁止の意味を表す「〜ないでください」という文法を使うためには、上から4つ目の「ない形」を知っている必要があります。
例:「写真を撮らないでください」
他にも、挑戦の意味を表す「〜てみます」の文法には、「て形」が必要です。
例:「おいしいかどうか、食べてみます」
また、これも形容詞と同様に、動詞によって変化のルールが違うのです。ここではそれは割愛しますが、動詞だけでも覚えることがたくさんあることが伝わりましたか。ひとつの動詞に対して13種類の活用があるなんて、気が遠くなってしまいますよね。
日本語を学ぶー発音
英語を学んだ際、発音に苦労された方もいると思います。外国人と話す際に英語がなかなか伝わらないのは、発音が原因のことも多いですよね。特に「R」や「TH」の発音は日本語にはないので、何度練習しても日本語風の発音から抜け出せない!という経験をされた方もいるのではないでしょうか。このように、生まれてからずっと話している言語にない音を出すのは、人間にとって簡単なことではありません。
英語の発音を学ぶ際に、舌の位置が説明されることが多いように、発音には舌や口内の使い方が大きく関係しているのはご存知ですよね。
そのため、日本語にも、外国人の母語によって発音がしにくい音というのが存在します。
有名な話では、韓国人にとって、日本語の「ざ行」の発音が難しいなどです。これは韓国語に「ざ行」の音がないからです。
他にも、ベトナム人にとって「つ」の音が発音しにくいという話もあります。ベトナム語に「つ」が存在しないため、どうしても「とぅ」や「ちゅ」の音に近くなってしまう人が多いのです。
これは日本語の発音の特徴ではなく、日本語を学ぶ外国人の母語の影響が関係しているということです。
また、外国人にとって、日本語の長音の聞き分けが難しい場合があります。
長音とは、音節を長く伸ばす音で、「多い(おーい)」「せんせい(せんせー)」などが例として挙げられます。
例えば、
・おじさん / おじいさん(おじーさん)
・病院(びょーいん) / 美容院(びよーいん)
などのペアが、ほとんど同じ言葉に聞こえてしまうということです。日本人は微妙な音節の伸びで違いを聞き取ることができますが、外国人からすると、聞き分けるのが非常に困難だとのことです。
まとめ
いかがでしたか。
今日は、日本語を学ぶ際の具体的な内容やプロセスを紹介しました。日本語を外国語として学ぶ難しさを、少しでも感じていただけたでしょうか。
この複雑な日本語を習得し、それをツールとして仕事や学校で使いこなすのは容易なことではありません。まずはみなさんも身近な外国人に、日本語学習経験について聞いてみてはいかがでしょうか。何か新たな発見や学びがあるかもしれません。