外国人介護職員の採用が進む中、現場での日本語力の重要性がますます高まっています。しかしながら、「日本語能力試験に合格している=現場で困らない」というわけではありません。特に介護の現場では、専門用語や丁寧な言い回し、文化的な背景を理解した日本語が必要とされます。
今回は、外国人介護職員の日本語力不足によって生じる課題を整理し、その解決策として「介護の日本語」の習得支援に焦点を当てながら、実践的な教育体制と支援サービスについて解説します。
「介護の日本語」が必要である理由
日本語をしっかり学んでいても、それがそのまま介護の現場で通用するとは限りません。というのも、介護の現場では、日常会話とは異なる「介護の日本語」が求められるからです。
たとえば、「体位変換」「移乗」「嚥下」といった医療・介護に特有の専門用語や、「〜してくださいませんか」「〜していただけますか」といった丁寧な指示表現が日常的に使用されます。また、職員同士の情報共有や報告・連絡・相談といった業務上のやりとりも、日本語のビジネスコミュニケーション能力を必要とします。
こうした言語スキルは、JLPT(日本語能力試験)のN3やN2に合格しているレベルでも十分とはいえません。なぜなら、これらの試験では主に日常会話や読解・聴解の基礎力が問われるため、現場で必要とされる「即戦力となる日本語力」とはズレがあるからです。
さらに、介護福祉士などの国家資格を取得していても、実務の中で必要な表現や微妙なニュアンスがわからず、現場で戸惑うこともあります。そのため、現場で実際に使われる日本語にフォーカスした学習機会が不可欠です。
外国人介護人材の日本語能力の不足によって発生する問題
介護の現場では、利用者さんの安全を守りながら、チームで連携して業務を進めることが求められます。しかし、日本語の理解力が十分でない外国人介護職員の場合、業務上のコミュニケーションに支障をきたし、深刻な問題につながることもあります。ここでは、日本語能力の不足によって具体的にどのような問題が起こるのか解説します。
- 記録・書類が理解できず業務が円滑に進まない
- 利用者とのコミュニケーションがうまく取れない
- 職場内で孤立しやすく定着率が低下する
記録・書類が理解できず業務が円滑に進まない
介護の現場では、日々の業務記録や連絡事項など、多くの情報が日本語で書かれています。外国人介護職員がこれらを正確に理解・記録できない場合、業務にさまざまな支障が生じます。
たとえば、バイタルサインや食事・排せつなどの介護記録を正確に読み書きできないと、利用者さんの体調変化を見落とす可能性があります。また、「肺炎」「糖尿病」といった病名や医療用語の理解が不十分だと、必要な対応が遅れてしまうおそれもあります。
さらに、勤務シフトの変更や研修の案内など、事業所からの重要な連絡を見落としてしまうリスクも考えられます。中でも深刻なのは、利用者さんの食物アレルギーや薬の服用に関する情報を正確に理解できず、誤って提供してしまうというケースです。このようなミスは、命に関わる重大な事故につながりかねません。
利用者とのコミュニケーションがうまく取れない
介護の現場では、利用者さんとの信頼関係が円滑なケアの基盤となります。
しかし、日本語でのやり取りが不自然だったり、伝えたいことがうまく伝わらなかったりすると、日常的な声かけや会話に支障が出ることがあります。特に、高齢者の中には地域特有の方言を使う方も多く、聞き取りが難しいケースがあります。
また、「〜してもらえるかな?」といった遠回しな依頼や、「ご無理なさらずに」といった配慮を含んだ表現が理解しづらいこともあります。こうした表現がわからないと、適切な対応ができず、利用者さんに不安を与えてしまうことにもつながります。
さらに、外国人介護職員の言葉選びやイントネーションによっては、利用者さんが違和感を覚えたり、距離を感じたりしてしまうこともあります。たとえケアの手順が正しくても、言葉のやり取りにぎこちなさがあると、「冷たい」「怖い」といった印象を持たれることもあり、結果的に信頼関係の構築が難しくなります。
職場内で孤立しやすく定着率が低下する
日本語でのやり取りが不十分だと、同僚との会話に入れなかったり、周囲との関係構築が難しくなったりすることがあります。何気ない雑談や報告・連絡・相談の場面でも、「何を言えば良いかわからない」「聞かれていることが理解できない」といった不安が積み重なり、職場で孤立してしまうことがあります。
こうした状況が続くと、自分の居場所がないと感じたり、精神的な負担が大きくなったりするケースもあります。また、日本語の壁によって仕事に自信を持てず、ストレスが蓄積してしまうこともあります。結果として、「辞めたい」「違う職場でやり直したい」といった思いにつながりやすく、離職率の上昇につながる原因となります。
外国人職員が安心して働き続けられる環境をつくるには、語学的なサポートだけでなく、日々のコミュニケーションの中で「頼れる人がいる」「相談できる」と実感できる支援体制が欠かせません。
介護現場の外国人材に日本語を教える際のポイント
介護現場では、利用者の命や安全に直結する業務が多く、現場で使える実践的な日本語を身につけることが欠かせません。ここでは、外国人材に「介護の日本語」を教える際に重要となるポイントを解説します。
- 汎用の日本語教材より「介護用テキスト」を使用する
- 雑談で使える表現や話題を教える
- 言語レベルと文化理解の両立を意識する
汎用の日本語教材より「介護用テキスト」を使用する
介護現場で必要とされるのは、日常会話ではあまり使われない表現や専門用語です。「ベッドのギャッジアップ」「体を横に向ける」といった介護特有の指示や、「ナースコール」「嚥下」などの用語を正しく理解し、使いこなせるようになる必要があります。
一般的な日本語教材ではこうした表現が扱われていないため、介護現場向けの専門教材を使って学習することが効果的です。イラストや写真を使って視覚的に理解を助ける教材は、言葉の壁を超えるうえで大きな助けになります。
教材選びのポイントは、「現場でそのまま使えるかどうか」です。実際の業務や場面を想定した例文が多く含まれている教材を選ぶことで、習得した表現をすぐに現場で活かすことができます。
雑談で使える表現や話題を教える
職場において、何気ない会話やちょっとしたやり取りは、信頼関係を築くうえで欠かせません。外国人介護職員が孤立しないためには、業務以外の場面でも自然に会話ができる力が求められます。
たとえば、「今日は暑いですね」「昨日のテレビ見ましたか?」といったスモールトークは、利用者さんや同僚との距離を縮めるきっかけになります。また、高齢者が話しやすいテーマ(天気、食事、昔話など)に触れられるようにしておくと、会話が広がりやすくなります。
こうした表現は教科書ではあまり扱われないため、意識的に日常会話の表現を取り入れていくことが重要です。話題の引き出しを増やすことで、相手との関係が築きやすくなり、職場での安心感や働きやすさにつながります。
言語レベルと文化理解の両立を意識する
介護の現場では、単に言葉が通じるだけではなく、「どう伝えるか」が非常に重要になります。日本語では、命令形を避けて丁寧にお願いする表現や、相手の気持ちを察して配慮するような言い回しが多用されます。
たとえば、「早く来てください」ではなく「お手すきのときに来ていただけますか?」という表現が使われることが多く、言葉の使い方ひとつで印象が大きく変わります。こうした日本特有の間接的な表現や、場の空気を読む文化は、外国人職員にとって理解しづらい部分です。
そのため、言語の学習と同時に、日本人の価値観やコミュニケーションスタイルを学ぶ機会を設けることが大切です。文化的背景を理解することで、誤解やトラブルを防ぎ、より良い人間関係を築くことが可能になります。
外国人介護人材への支援体制の整備に向けたステップ
介護現場で外国人職員が安心して働き、力を発揮できるようにするには、場当たり的な対応ではなく、組織としての支援体制をしっかり整える必要があります。現場に任せきりではなく、人事や教育部門が関与しながら、段階的かつ継続的な取り組みを行うことで、定着率や業務の質にも良い影響が現れます。ここでは、外国人職員の受け入れから定着・成長までを見据えた支援体制の整備ステップについて解説します。
- 現状把握と課題を可視化する
- 初期支援を実施する
- 支援項目を分けて設計する
- 中長期的な教育体制を検討する
- 支援を段階的かつ継続的に実施するための仕組みを検討する
1. 現状把握と課題を可視化する
まずは、外国人職員の日本語力、職場内での困りごとを把握することがスタートです。実際にどんな場面で困っているのか、現場の声を拾い上げ、「求められる日本語力」と「現状のギャップ」を明確にすることがスタートラインとなります。
また、既存の教育・指導体制やサポート内容を棚卸しし、どこに負担が集中しているかを洗い出すことで、今後の対策が見えてきます。
2. 初期支援を実施する
入職時に日本語レベルチェックを行い、教育の優先度や方法を決めます。何をどこまで理解しているのかを把握できれば、サポートの方向性がブレることもありません。
さらに、職場内で「この人に相談すれば良い」と思える支援役の存在は、外国人職員の安心感につながります。初期研修では、業務に必要な専門用語だけでなく、日本の介護現場特有のマナーや文化も共有することで、ミスマッチや戸惑いを減らすことができます。
3. 支援項目を分けて設計する
日本語教育はもちろん、「生活面の支援」や「メンタルケア」まで、サポート体制は多面的に設計する必要があります。
「全部現場で対応」は現実的ではありません。外部サービスの活用も含めて、それぞれの支援を「誰が、いつ、どのように行うのか」を整理することで、負担の分散と質の担保が可能になります。
4. 中長期的な教育体制を検討する
外国人職員が職場に慣れてきたからといって、教育を終えてしまうのは早計です。定期的な面談を通じて小さな困りごとを拾い、継続的に学べる環境を整えることで、長期的な成長につながります。
また、eラーニングや外部の研修プログラムを活用すれば、職場にいながら学習を進めることも可能です。学習状況を可視化する仕組みがあれば、学習の進捗やモチベーション維持、さらには個別フォローにも役立ちます。
5. 支援を段階的かつ継続的に実施するための仕組みを検討する
支援体制は一度整えて終わりではなく、運用しながら改善していくことが重要です。最初は手厚くサポートしつつ、徐々に自立を促す体制へと移行していくことで、外国人職員が自信を持って業務に取り組めるようになります。
定着率やチームとしての安定感を高めるためには、「継続的な教育」「柔軟な見直し」「成長に応じた支援」がカギとなります。
現場と教育担当者の負担を減らすための方法
外国人職員を支援したくても、「現場の人手が足りず、教える時間がない」「教える人によって内容が違う」「せっかく教えてもすぐに辞めてしまう」といった声がよく聞かれます。このような状況では、教育の質が安定せず、現場の負担ばかりが増えてしまいます。では、どうすれば教育と業務のバランスを保ちながら、効果的な支援ができるのでしょうか?ここでは、現場と教育担当者の負担を減らすための方法について解説します。
- 外部の教育ツールや教育支援を導入する
- 学習状況を「見える化」する
外部の教育ツールや教育支援を導入する
すべての教育を職場だけで担おうとすると、どうしても限界が生じます。そこで有効なのが、日本語学習を支援するオンラインツールやeラーニングの導入です。
これらのツールを活用することで、個々のペースで学習を進めることができ、教育担当者の時間的負担も大きく軽減されます。また、専門知識を持った第三者のサポートが入ることで、教え方のばらつきも防げます。
学習状況を「見える化」する
学習の進捗が可視化されることで、学ぶ側は自分の成長を実感でき、学ぶ意欲につながります。一方、教育担当者にとっても状況の把握がしやすくなり、必要なフォローが的確にできるようになります。
面談時の資料として学習記録を活用したり、職場内での評価の参考にしたりと、見える化は教育の質とモチベーション維持の両面で効果を発揮します。
外国人介護人材の日本語教育なら明光グローバルにおまかせください
外国人介護職員の受け入れは、単なる人手不足対策にとどまりません。文化や言語の違いを乗り越え、職場で長く安心して働ける環境を整えるには、継続的な育成と支援の体制が不可欠です。現場任せではなく、組織全体で計画的に教育と定着支援を行う仕組みづくりが重要となっています。
明光グローバルでは、40年以上にわたる日本語教育の実績と、介護分野に特化したノウハウをもとに、外国人介護職員向けの専門的な日本語教育サービスを提供しています。現場のリアルな課題に対応する、実践重視のプログラムが特長です。
- 介護の現場で実際に使われる表現・用語に特化したカリキュラム
- 学習進捗が一目で分かるレポート機能や定期面談のフォロー
- オンライン対応可能で、全国どこでも導入しやすい柔軟なプログラム
初任者向けの基礎指導から、現場定着後のフォローアップ、さらに介護福祉士国家試験の日本語対策まで、段階的にサポートが可能です。外国人職員と日本人スタッフの「伝わらないストレス」を減らし、円滑なチームづくりを支援します。
外国人介護人材の戦力化を目指すなら、明光グローバルにぜひご相談ください。最後に、明光グローバルの概要と、提供するサービスを紹介します。
明光グローバルとは
明光グローバルは、外国人材の就労機会の創出と育成を通して、日本企業の持続的な成長をサポートする教育系人材サービスです。
40年以上の個別指導の教育実績、そして10年以上の日本語教育の実績を持つ明光ネットワークジャパングループの知見を活かし、外国人材の育成と企業の人材課題解決に特化したサービスを提供しています。
JCLIや早稲田EDU日本語学校での豊富な教育ノウハウを活かし、特定技能試験対策から業界別の専門教育まで、幅広いニーズに対応しています。外務省からEPA事業を4期連続で受託するなど、高い信頼性と実績を誇ります。
明光グローバルの主要サービス
事業 | サービス |
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教育研修事業 | ・eラーニングによる日本語教育(スマホアプリに対応) ・対面/オンラインによる日本語レッスン ・外国籍人材と日本人に向けた各種研修プログラム ・外国籍人材に向けた各種試験対策講座 |
人材紹介事業 | ・特定技能人材の紹介 ・外国籍エンジニアの人材紹介 ・教育伴走型の登録支援サービス |
特定技能人材やエンジニアの紹介から、外国人社員向けの教育・研修サービスまで、幅広いノウハウを提供しています。単なる日本語教育にとどまらず、企業での実践力を重視した総合的な人材育成を行っています。
オンライン日本語学習ツール「Japany」
「Japany」は、明光キャリアパートナーズが提供している外国人向けオンライン日本語学習ツールです。Japanyを活用すれば、現場で用いる実践的な日本語や、特定技能試験対策など、合計1,200本以上の豊富な動画教材を活用して学ぶことができます。そのため、外国人社員のさまざまな学習ニーズに応えることができます。
また、パソコンやスマートフォンを使って、スキマ時間に自分のペースで学習できるのも特徴的です。さらに、管理者機能として、学習進捗を確認できる「レポート機能」や、一定期間ログインがないと通知が届く「アラート機能」を活用することもできます。
受講形態 | e-ラーニング |
対象者 | 企業に在籍する外国人籍社員・帰国子女など |
プログラム・コース内容(一例) | ・日本語試験対策(JLPT・JFT Basic) ・せいかつの日本語 ・特定技能試験対策(1号+2号に対応) ・しごとの日本語(ITエンジニア、外食、介護など各業界のビジネス会話に対応) |
受講期間 | コースによって異なる |
料金プラン受講費用 | 初期費用:100,000円 月額費用:1名あたり1,000円~(受講人数に応じて変動) 年間契約費用:1名あたり9,500円~(受講人数に応じて変動) |
Japanyの強み
Japanyの強みは、「実用性の高いオリジナルコンテンツ」「学習の継続を促すシステム」「管理者を支えるサポート機能」の3点です。
実用性の高いオリジナルコンテンツ | 「Japany」には、N5〜N1までを網羅したJLPT対策を始めとする1,200本以上の豊富なレッスン動画コンテンツがあります。資格試験対策だけでなく、業界・業種別の言い回しや日常的な会話能力が身につく動画など、学習者のニーズに合わせてさまざまなコンテンツの動画を視聴できます。 |
学習の継続を促すシステム | 「Japany」には、実力・目標に応じて最適なプランを提案する「コンテンツレコメンド機能」や、力試しとして使える「実力診断テスト」など、外国人材の学習モチベーションを向上するさまざまな機能が搭載されています。 |
管理者を支えるサポート機能 | 学習者の進捗状況を確認できる「レポート機能」や、ログインがない場合に通知が届く「アラート機能」といった管理者機能も充実しています。そのため、人事・教育担当者の方も安心して利用することができます。 |
JapanyならIT導入補助金の活用が可能
Japanyは「IT導入補助金2025」の対象ツールに採択されています。そのため、中小企業や小規模事業者がJapanyを導入する際、IT導入補助金の対象として採択・交付が決定された場合、導入費用の最大50%、150万円までの補助を受けることが可能です。教育コストをかけられない企業の方でも導入しやすいため、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
外国人介護職員の活躍を支えるには、「介護の日本語」を学ぶ機会と、現場で安心して働ける環境づくりが必要不可欠です。言葉の壁が原因で起こるトラブルや孤立を防ぐためにも、実践的で効果的な日本語教育を導入し、職場全体で支える体制を築いていくことが求められます。
そのためには、単なる語学教育にとどまらず、文化的な違いや価値観のズレにも配慮し、相互理解を深める取り組みが欠かせません。教育は一方向の「教える」だけでなく、共に働くための「対話」の場でもあります。現場のニーズに即した柔軟な支援体制を構築し、一人ひとりの成長を長期的に見守る姿勢が、組織全体の力につながります。
明光グローバルの教育サービスは、そうした課題を根本から解決するためのパートナーとして、介護現場の現実に即した支援を行っています。これまでの実績とノウハウをもとに、外国人職員が自信をもって現場で力を発揮できるよう、語学力だけでなく、定着やキャリア形成まで見据えたトータルサポートを提供しています。
今後ますます多様化する介護現場において、外国人職員の存在は不可欠なものとなるでしょう。そのポテンシャルを最大限に引き出すためにも、教育体制の見直しと職場環境の改善は、すべての関係者にとって喫緊の課題です。受け入れる側の意識と仕組みの両面から、より良い共生の現場を築いていきましょう。