外国人材との円滑なコミュニケーションには、「やさしい日本語」を使ったわかりやすい伝え方が欠かせません。外国人材の増加により、現場での教育指導や業務指示において、日本語がうまく伝わらず悩んでいる方が増えています。
今回は、文化庁や出入国在留管理庁などが推奨する「やさしい日本語」の活用方法をもとに、現場ですぐに役立つ日本語表現の工夫や、伝わるマニュアル作成のコツを解説します。外国人材の受け入れや教育に関わる方は、ぜひ最後までご一読ください。
外国人材に対する教育指導や業務指示にお悩みの方が増えている
近年、大企業だけではなく中小企業でも外国人材を積極的に採用するようになっています。その結果、外国人材を採用してもどのように教育して良いかわからず、日本語で教育指導や業務指示を行う際に、なかなか伝わらずに困っている方が増えています。
2024年10月時点で日本で雇用されている外国人は230万人を超え、届出が義務化された2007年以降は増え続けています。今後、多くの企業で外国人材とのコミュニケーションが必須になると考えられます。
参照元:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)(厚生労働省)
外国人材に伝わる日本語とは
外国人材と日本語で話してもなかなか伝わらないという経験をしたことがある方は多いかと思います。外国人材の日本語レベルはさまざまですが、全ての方に共通するのは「自分の母語でない日本語をゼロから学び、日本語でコミュニケーションを取ろうとしている」ということです。
外国人材と日本人がコミュニケーションを取る場合、もちろん外国人材の日本語レベルの向上も必要ではありますが、日本人が外国人材に伝わりやすい日本語を話せば、コミュニケーションの難易度が下がります。
「やさしい日本語」とは、出入国在留管理庁・文化庁が推進している、相手の日本語能力に配慮したわかりやすい日本語でのコミュニケーション方法のことです。これから、職場ですぐに実践できる「やさしい日本語」の活用方法を紹介していきます。
参照元:
外国人材に伝わる「やさしい日本語」での教育指導・業務指示の方法
ここでは「やさしい日本語」を活用した教育指導や業務指示の方法を紹介します。すぐに実践できるものばかりですので、ぜひ活用してみてください。
共通して大切なことは、「なるべくゆっくり話す」「声に適度な抑揚をつける」ことです。相手の立場に立って話したり、聞いたりすることを心がけてください。
どうしても伝わらない場合は、身振り手振りや資料、写真、図、実物、コミュニケーションボードを活用するのも良いでしょう。ただし、ジェスチャーの意味は世界共通ではないため注意が必要です。相手の反応や日本語レベルを確認し、臨機応変に対応しましょう。
参照元:在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン別冊 話し言葉のポイント(出入国在留管理庁・文化庁)
動詞の「ます形」を使って話す
日本人は自然に日本語を習得しますが、外国人はそうではありません。ひらがな、カタカナ、漢字、音声、文法を全てゼロから学ぶ必要があります。
日本語が入門レベルの外国人は、まずは「ひらがな、カタカナ、簡単な漢字」を学びながら、日常的に使う動詞も勉強します。日本語の動詞の活用は数多くあります。たとえば「食べる」ひとつ取っても「食べる」「食べます」「食べません」「食べて」「食べた」「食べろ」など数多くの活用があり、すべてを覚えるのはとても大変です。
日本語の動詞の活用が難しいことからも、外国人が日本語を学ぶ際は、「ます形」から習います。「ます形」は目上の方に使っても失礼ではなく、さまざまな場所で活用できるからです。外国人は動詞を「ます形」で覚えているため、日本語にあまり慣れていない方と話す時は、動詞を「ます形」で切って話すと通じやすいことが多いです。
(例)
通常の日本語:資料を印刷して、ホッチキスでとじて、机に並べておいてください。
やさしい日本語:資料を印刷します、ホッチキスでとじます、机に並べます。
相手に配慮して話す内容を整理する
大前提として、外国人材は日本語に慣れていないだけで、立派な大人です。子供扱いをせずに大人として対応することはとても大切です。
また、彼らは日本社会の一般常識を知らない可能性もあるため、「これぐらい知っているだろう」と思わずに丁寧に説明をすることが必要です。伝えたい情報を取捨選択しつつも、相手に伝わっているだろうという思い込みを取り払ったうえで会話をする必要があります。英語混じりの不自然な日本語も使わないようにしましょう。
相手の話をしっかり聴く
外国人材の話を聴く姿勢もとても大切です。慣れない日本語で一生懸命コミュニケーションを取ろうと外国人材が話しているときは、落ち着いて対応し、相手が緊張していたら、笑顔で緊張を和らげてあげてください。
また、アイコンタクトや相槌を打ち、話を聴いている姿勢を示しましょう。相手が話したことを繰り返し、自分が理解していることを示しましょう。万が一相手が言っていることがわからなければ復唱してみて相手の意図を確認することも効果的です。
短くはっきり言い切って話す
文が長くなればなるほど、理解することが大変です。短く簡潔に話すことを心がけましょう。
(例)
通常の日本語
明日の会議で社長が話す時に使う資料をうちらが作ることになっているんだけど、実はまだできてないからとりあえず急いで資料を作ってほしいんだけど間に合うかな?できればで良いんだけど、なるべく早く欲しいです。
やさしい日本語
明日の会議に社長が来ます。社長は来月の目標の話をします。私たちは会議の資料を作ります。締め切りは今日の夕方5時です。あまり時間がありません。すみませんがAさんも手伝ってください。できますか。
前述した「ます形」を使い、動詞の活用をシンプルにしながら、大切なことを簡潔に話すようにしましょう。日本語は主語を省略することが多いですが、主語は省かない方が良いです。また、「なるべく早く」や「できればで良い」などの曖昧な表現は日本語特有のものなので、使用はできる限り控えましょう。
難しい日本語を使わない
外国人材が理解できるように、難しい言葉や言い回しは避けましょう。ここでは、外国人に難しいといわれている日本語を紹介します。
外来語
外来語は非漢字圏の国から入ってきた言葉で、主にカタカナを使用します。日本語の中でも、外国人が苦戦するのがカタカナです。外国人材にとってカタカナが難しい理由は、日本人が外来語を話す際の発音が元の言語と異なっていたり、本来とは違う意味で使われていたりすることがあるためです。
(例)
オリジナルの言語の発音と違う外来語
- alcohol(アルコール):英語では「アルコホール」に近い発音です
- energy(エネルギー):英語では「エナジィ」に近い発音です
本来とは違う意味で使われている外来語
- ノートパソコン:英語では「laptop」といい、まったく別の単語です
- メリット・デメリット:英語では「pros and cons」と表現されます
このように、外来語には発音や意味が元の言語と異なるものが多いです。さらにカタカナには「ソ」と「ン」、「ス」「ヌ」など似ている表記の文字が多いため、混乱する外国人材も少なくありません。メールやチャットなど、テキストでのやり取りでは、似た表記のカタカナに注意しましょう。
オノマトペ
「イライラする」「ドキドキする」「火がパチパチ燃える」など、感情を表現したり擬音や擬態を説明する「オノマトペ」も外国人には難しいといわれています。日本にはオノマトペが多数存在しており、その数は世界の言語の中でも群を抜いているため外国人が理解したり覚えたりするのが難しいです。
敬語
敬語も外国人が難しいと思っている日本語の要素です。敬語自体はJLPT N4で勉強しますが、尊敬語、謙譲語は日本人でも使うのが難しく、混乱する外国人も多いです。
二重否定
否定の形が2つ重なった表現を二重否定といいます。
(例)
普通の否定 行かない
二重否定 行かないわけではない
上記の二重否定は「行く」という意味で日本人でも理解が難しいこともあるため、外国人材に使うと混乱を招きます。使用しないことをおすすめします。
wh- 疑問文
wh- 疑問文とは、What / Who / When / Where / How などの疑問詞を用いた文で、Yes / Noで答えることができません。日本語に慣れていない外国人材はYes / Noで答える疑問文のほうが答えやすいです。
外国人材に伝わる「やさしい日本語」を用いた資料作成・マニュアル作りの方法
外国人材に向けて資料やマニュアルを作る際は、「やさしい日本語」を使用することを心がけましょう。ここでは、「やさしい日本語」を活用した資料作成の方法について解説します。
- わかりやすい文章を作成する
- 外国人材に伝わるよう表現を修正する
- 文案を第三者に見てもらいわかるかどうか確認する
参照元:
わかりやすい文章を作成する
まず、日本人にも外国人にもわかりやすい文章を作成するように心がけてください。伝えたいことを整理して情報を取捨選択することが大切ですが、情報が不足していると相手に伝わらないため、補うことも必要です。
文章は、シンプルな表現を心がけ、まわりくどい表現や何度も繰り返すことは避けましょう。箇条書きを使うと効果的です。また、上記に記載したようにカタカナの使用はなるべく避けることをおすすめします。
非漢字圏の外国人材は漢字が苦手な場合もあるので、漢語ではなく和語を意識しましょう。「使用する」を「使う」に、「乗車する」を「乗る」に書きかえるだけでもわかりやすくなります。
外国人材に伝わるよう表現を修正する
外国人材向けに資料を作成する場合は、文字だけの表現であると限界があります。文字だけではなく、イラストや写真、図、記号を使って視認性を高めてください。言い換えが難しい難解な言葉の説明などに有効です。
また、漢字が苦手な外国人材のために、漢字にはふりがなをふりましょう。年号を和暦にすると、わかりにくいので西暦で合わせる、UDフォントなどのユニバーサルデザインを意識したフォントを使うなどの工夫も効果的です。
文案を第三者に見てもらいわかるかどうか確認する
作成した資料が外国人材に伝わるかどうか不安な場合は、第三者に確認してもらってください。企業で契約している日本語教師や、職場の外国人材に資料を見てもらうことで、伝わるかどうかをチェックできます。意見をもらい、資料をブラッシュアップさせていきましょう。
外国人材に伝わる「やさしい日本語」のメリット
「やさしい日本語」は慣れれば簡単に使うことができます。ここでは、「やさしい日本語」を活用するメリットについて解説します。
- 日本語しか話せない日本人社員でも意思疎通しやすくなる
- 通訳スタッフや機械翻訳が使えないときにも役立つ
日本語しか話せない日本人社員でも意思疎通しやすくなる
世界の共通語は英語とされていますが、日本語以外の言語を話すことができない日本人社員は多いです。また、英語を話せない外国人材もいるため、日本人が「やさしい日本語」で外国人材と意思疎通することは効果的だといえます。
日本人が「やさしい日本語」を活用できれば、日本語しか話せない日本人社員でも気軽に導入ができ、すぐに外国人材とのコミュニケーションの課題を改善することができ、さまざまな国の外国人材とコミュニケーションが取れます。
通訳スタッフや機械翻訳が使えないときにも役立つ
もともと「やさしい日本語」は1995年に起きた阪神・淡路大震災において、外国人の死傷者割合(2%以上)が日本人の死傷者割合(約1%)より高かったという教訓から取り組まれたものです。
特に、災害時や緊急時は、通訳スタッフや機械翻訳に頼れないことも想定されます。このような場面こそ、「やさしい日本語」を使うことにより、外国人に迅速な案内ができ、命を守ることにもつながります。
外国人に伝わる「やさしい日本語」の注意点
続いて、「やさしい日本語」を活用する際の注意点について解説します。
- 専門的な内容や制度の説明には「やさしい日本語」だけでは不十分な場合がある
- 外国人材の日本語能力があまりにも低い場合は伝わらないことがある
専門的な内容や制度の説明には「やさしい日本語」だけでは不十分な場合がある
「やさしい日本語」は、あくまでも日本語のわかりやすさに主眼をおいているため、難解な話題をうまく説明できない場合があります。
法律や労働契約の詳細説明、医療や福祉に関する情報、人権や社会制度に関する内容には専門用語が多くあるため、「やさしい日本語」だけでは対応できないこともあります。難しい話題については、通訳スタッフや機械翻訳などの手段を併用することが望ましいです。
外国人材の日本語能力があまりにも低い場合は伝わらないことがある
日本語をまったく学習したことがない方や、日本語能力が初級レベル以下の方には十分に伝わらないことがあります。
職場においては、日本人社員が「やさしい日本語」を使って配慮するばかりでなく、外国人材も継続的に日本語学習を行うなどして、相互に努力することが必要です。
外国人材の採用に伴う各種教育研修プログラムは明光グローバルにおまかせください
日本人社員が、「やさしい日本語」を学ぶと外国人材とのコミュニケーションが取りやすくなります。また、同時に、外国人材に対して、継続的な日本語教育をすることも大切です。明光グローバルでは、こうした外国人材の採用に伴う各種教育研修プログラムを実施することが可能です。最後に、明光グローバルの概要と提供するサービスを紹介します。
明光グローバルとは
明光グローバルは、外国人材の就労機会の創出と育成を通して、日本企業の持続的な成長をサポートする教育系人材サービスです。
40年以上の個別指導の教育実績、そして10年以上の日本語教育の実績を持つ明光ネットワークジャパングループの知見を活かし、外国人材の育成と企業の人材課題解決に特化したサービスを提供しています。
JCLIや早稲田EDU日本語学校での豊富な教育ノウハウを活かし、特定技能試験対策から業界別の専門教育まで、幅広いニーズに対応しています。外務省からEPA事業を4期連続で受託するなど、高い信頼性と実績を誇ります。
明光グローバルの主要サービス
事業 | サービス |
---|---|
教育研修事業 | ・eラーニングによる日本語教育(スマホアプリに対応) ・対面/オンラインによる日本語レッスン ・外国籍人材と日本人に向けた各種研修プログラム ・外国籍人材に向けた各種試験対策講座 |
人材紹介事業 | ・特定技能人材の紹介 ・外国籍エンジニアの人材紹介 ・教育伴走型の登録支援サービス |
特定技能人材やエンジニアの紹介から、外国人社員向けの教育・研修サービスまで、幅広いノウハウを提供しています。単なる日本語教育にとどまらず、企業での実践力を重視した総合的な人材育成を行っています。
明光グローバルの各種教育・研修サービスの概要
明光グローバルでは、外国人材の日本語能力向上と各業界に特化した学習支援を4つの柱で展開しています。時間や場所を問わない「Japany」でのeラーニングから、ビジネス経験豊富な講師による個別指導まで、幅広いニーズに対応できることが特徴です。
サービス | 概要 |
---|---|
外国人向けオンライン日本語学習ツール「Japany」 | ・1,200本以上の豊富な動画教材 ・N5~N1レベルまでの総合的な学習コンテンツ ・多言語対応により初学習者も安心して学習が可能 ・特定技能2号試験対策コンテンツも搭載(外食業、飲食料品製造業、製造業、宿泊業) |
オンライン日本語レッスン | ・ビジネス経験豊富な講師による個別指導 ・業界別カスタマイズカリキュラム ・定期的にレッスン報告書を企業に提供 |
各種研修プログラム | 【外国人材向け】新入社員研修、異文化理解研修等 【日本人社員向け】外国人材受入れ研修等 |
各種試験対策講座 | ・専門講師が直接指導 ・実施方法はオンライン/対面いずれも対応可能 ・受講人数や実施回数など企業毎にカスタマイズして対応可能 ※介護福祉士試験対策講座、特定技能2号試験対策講座(外食、飲食料品製造、製造業、建設の4分野に対応) |
各種教育・研修サービスの強み
明光グローバルの外国人社員向け各種教育・研修サービスの強みは「実用性の高さ」「カスタマイズ性」「豊富な実績」の3点です。
明光グループでは、これまで40年以上もの間、個別指導をはじめとした教育活動を実施してきました。そのため、明光グローバルには、企業様の状況に合わせた実用的な学習コンテンツが蓄積されています。学習した内容をすぐに現場で活かすことができるため、社員がモチベーション高く取り組むことができるでしょう。
また、さまざまな研修コンテンツを、企業の状況に応じてカスタマイズできることも特長です。外国人社員向けの日本語能力向上の研修だけでなく、業界や職種に特化したビジネスマナーや接遇・セールス研修、外国人社員を受け入れる日本人社員向けの受け入れ研修や異文化理解研修、異文化コミュニケーション研修など、幅広い研修を行うことができます。
さらに、EPA事業を外務省から4期連続で受託しており、国内外ともに豊富な導入実績を持っています。企業の規模や外国人社員の採用経験の多寡を問わず、さまざまなサポートが可能です。
まとめ
外国人材を受け入れる企業にとって、「やさしい日本語」によるわかりやすい教育指導は、採用の成功と職場定着に直結する重要な要素です。日本語能力に個人差がある外国人材に対して、日本人社員が相手に配慮した表現で接することで、業務の理解度が高まり、コミュニケーションの摩擦も減少します。
また、制度や業務の説明を丁寧に伝えることで、外国人材の安心感と信頼感を得ることができ、職場全体の生産性や定着率の向上にもつながります。こうした背景から、「やさしい日本語」を実践するだけでなく、日本人社員向けの受け入れ研修や外国人材向けの継続的な日本語学習も欠かせません。
外国人材とのより良い協働環境を築きたいとお考えの企業様は、ぜひ明光グローバルの教育研修プログラムをご活用ください。現場で実践できる具体的なノウハウを通じて、確かな成果を支援いたします。少しでもご興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。