日本では、多くの外国人介護士が働いています。その中には、介護福祉士試験に合格し、リーダーや幹部候補として期待される優秀な人材もいます。
一方、入国してまだ間もなく、これから適性を見極めていく段階の外国人介護士もいます。日々の努力や経験を積む中で、彼らも将来の幹部候補として成長するかもしれません。
今後の活躍が期待される外国人介護士に長く働いてもらい、不必要な理由で辞めてしまわないような対策を講じ、定着しやすい環境を作ることが、今後とても重要になってきます。今回は、外国人介護士の離職を防止するための対策について解説します。
外国人介護士の離職率は低い
在留資格の制限のため、外国人介護士には離職後の選択肢が少なく、離職率は極端に低くなっています。ここでは、外国人介護士の内全体の約8割を占める特定技能・技能実習の外国人介護士の離職率について解説します。
介護職員全体と外国人介護士の離職率の比較
外国人介護士の離職率は、介護職員全体の離職率と比べて極端に低い傾向にあります。厚生労働省の資料によると、介護職員全体の離職率(※1)は、令和4年時点で14.4%となっています。

画像引用元:外国人介護人材の確保・定着に向けて(厚生労働省)
続いて、外国人介護士の離職率を紹介します。離職率が発表されている特定技能の外国人介護士についてのみ解説します。出入国在留管理庁の資料によると、特定技能の外国人介護士の離職率(※2)は10.6%です。

画像引用元:技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議資料(出入国在留管理庁)
※1:離職率=2022年の1年間の離職者数÷労働者数
※2:離職率=2019年4月~2022年11月までの離職者数÷労働者数
ただし、この離職率の算出期間には、上記のように差があります。特定技能の外国人介護士の離職率を介護職員全体と同じように年単位に慣らすと、2.89%とさらに低くなります。
外国人介護士の離職率が低い理由
外国人介護士の離職率が低い理由は、主に次の3つが考えられます。
- 転職が難しいから
- 退職が難しいから
- 目標があるから
転職が難しいから
技能実習の外国人介護士は、転職がそもそも認められていません。また、転職が可能な特定技能で働く外国人介護士も転職が難しい状況にあります。その理由は、日本人と比べると転職先の選択肢が少ないからです。
在留資格の制限から、外国人介護士には介護職への転職しか認められていません。日本人の場合、介護の経験を活かして医療事務や福祉用具の販売といった転職も可能ですが、外国人介護士にはそのような選択肢がありません。
また、仮に転職を希望したとしても、外国人を受け入れられる介護施設を探す必要があります。全国⽼人福祉施設協議会(以下、全国⽼施協)の「令和4年度外国人介護人材に関する実態調査結果」によると、外国人介護人材を受け入れている施設の割合は全体の約42%です。
さらに、外国人を雇用している施設であっても、言語次第では、適切な通訳を確保できないケースも考えられます。このように転職先の選択肢が限られているため、外国人介護士の転職は難しい状況となっています。
参照元:「令和4年度外国人介護人材に関する実態調査結果」を公表(全国⽼人福祉施設協議会)
退職が難しいから
特定技能や技能実習の外国人介護士は、出稼ぎのために日本に来ているケースが多いです。離職してしまうと、母国の家族への仕送りを滞らせることになってしまいます。
特に、技能実習生は「離職=帰国」であるため、借金をして日本に来ている場合、「借金返済のために日本で働き続けたいけれど、現在働いている介護施設は辞めたい」という場合でも、その施設で働き続けるしか選択肢がありません。
目標があるから
明確な目標があり、次のステップを目指していることも離職率が低い理由だと考えられます。
特定技能の外国人介護士の場合、在留資格「介護」の取得を目標としており、働きながら勉強するため、できるだけ環境を変えたくない人も多いでしょう。また、技能実習の外国人介護士の場合、特定技能1号への移行を目指しており、技能実習を優良で終えることを目指している人も多いでしょう。
このような理由から、外国人介護士の離職率は、低くなっていると考えられます。
外国人介護士の離職率は今後上昇すると考えられる理由
転職しやすい環境が整うため、外国人介護士の離職率は今後上昇していくと考えられます。ここでは、その理由について解説します。
- 技能実習制度が育成就労へ移行されるから
- 特定技能の外国人介護士がさらに増加するから
技能実習制度が育成就労へ移行されるから
技能実習制度が廃止され育成就労制度へ移行することで、外国人介護士にとって転職や退職がしやすい環境が整います。
これまで転職が認められていなかった技能実習生も、一定の条件下で転職が可能となることや、事実上の強制労働を防ぐための制度整備も進められます。
参照元:入管法・技能実習法の改正(育成就労制度の創設等)(厚生労働省)
特定技能の外国人介護士がさらに増加するから
特定技能の外国人介護士が増えることで、外国人を受け入れる施設や外国人専門の職業紹介会社が増え、外国人介護士が転職しやすい環境が整っていくと予測されます。
令和6年3月の閣議決定により、令和6年4月から5年間の特定技能の介護分野の受入れ見込み数が次のとおり再設定されました。
特定技能介護分野の令和6年4月からの受入れ見込数等
特定技能1号在留者数(令和5年12月末現在:速報値) | 28,400人 |
制度開始時の受入れ見込数 | 60,000人 |
令和 5年度末までの受入れ見込数 | 50,900人 |
令和6年4月から5年間の受入れ見 込数 | 135,000人 |
特定技能制度の受入れ見込数の再設定(令和6年3月29日閣議決定)を基に作成
制度開始からの5年間と比べると2倍以上の受入れ見込み数となっており、今後特定技能の外国人介護士がさらに増えることは間違いありません。
外国人介護士の離職防止策
先ほど解説したように、外国人介護士は仕事の選択肢が増え、離職率が高まっていくでしょう。そのため、施設側は早い段階で定着率を上げるための施策を講じる必要があります。ここでは、外国人介護士の離職防止策を、特に優先度の高い5つに絞って解説します。
- 就労条件を整え理解してもらう
- 労働環境を整える
- キャリアップの機会を示す
- 生活の支援を行う
- 言語や文化の相互理解を行う
離職防止策①:就労条件を整え理解してもらう
外国人介護士が日本で働く目的は、母国の家族への仕送りのためのケースが多いです。そのため、適正な給与を支給することが重要です。
給与に対する理解を得る
まず、給与に対する理解を得ることが大切です。
たとえば、都心部と地方では給与に差があります。外国人介護士同士で情報交換が行われ、「なぜ自分の給与は他の人より低いのか?」との疑問から、仕事のモチベーションに影響を与えるかもしれません。
そのため、地方では家賃や物価が低く、結果的に貯金額に大きな差がないことを伝え、納得してもらえるような対応が必要です。
福利厚生を整える
福利厚生を整えることも重要です。
福利厚生の代表例が寮の提供や家賃補助です。全国⽼施協のアンケートによると、外国人を受け入れている介護施設のうち、寮を設置している割合は61.9%でした。

画像引用元:令和4年度外国人介護人材に関する実態調査結果
また、家賃補助や住宅手当を支給している割合は64.2%でした。

画像引用元:令和4年度外国人介護人材に関する実態調査結果(全国⽼人福祉施設協議会)
寮の設置や家賃補助、住宅手当の支給はいずれも60%を超える高水準となっています。生活費で高い割合を占める家賃を抑えられれば、外国人介護士にとっては大きなメリットとなり、定着率の向上につながります。
社会保険制度に対する一定の理解を得る
外国人介護士の立場からすると、「手取り金額=給与」と考えがちです。しかし、給与から差し引かれている社会保険料について理解することで、自分が受け取っている給与は手取り以上の額であると知ることができます。
具体的には、健康保険の重要性やその適用範囲、また厚生年金が脱退一時金として返還される旨を説明し、理解してもらうことで、給与に対する満足度を高めることができます。
離職防止策②:労働環境を整える
働きやすい環境を作ることも離職を防ぐ上で大切です。具体例として、次の2点が挙げられます。
- 介護マニュアルを作成する
- 日本語を勉強する機会を作る
介護マニュアルを作成する
外国人でも理解できる介護業務マニュアルを作成することにより、日本人が感覚的に行っている作業を言語化し、介護の手順や用具の名称、使用方法を統一化することができます。
何が正しく、何が間違っているのか、基準を明確にすることで外国人介護士が安心して業務に取り組むことができます。
日本語を勉強する機会を作る
日本語を勉強する機会を提供することも、外国人介護士が働く環境の改善につながります。
技能実習生や特定技能の外国人介護士だけでなく、介護福祉士の資格を持つ外国人介護士でも、日本語の勉強が必要だと感じているケースが多く見受けられます。日本語力の向上は、業務や職場でのコミュニケーション、私生活のストレス軽減につながります。
離職防止策③:キャリアップの機会を示す
給与だけが目的では、モチベーションを保つことが難しくなります。モチベーションを高く保つには、日々の業務の積み重ねの先に何があるのかを示してあげることが大切です。
たとえば、外国人新入社員の指導係として活躍したり、介護福祉士の資格を取得してリーダーや主任を目指したり、社会福祉士やケアマネージャーへのステップアップができることを提示したりするとよいでしょう。1年後、3年後、5年後のキャリアアップを示すことで仕事そして資格取得など学習への意欲が高まり、、定着率の向上が期待できます。
また、3年後や5年後に帰国を予定している場合、将来のために現在の仕事をどう活かすかといった個々のキャリア目標に寄り添ったアドバイスも必要です。
離職防止策④:生活の支援を行う
生活面で支援を行うことで、外国人介護士が仕事に集中できる環境を整えることができ、離職の防止策につながります。たとえば、ゴミ出し・分別方法や病院の利用方法、生活の工夫などを教えることなどが挙げられます。
ゴミ出し・分別方法
日本では、ゴミの分別が一般的です。しかし、アジアでは一部の都市でしか一般的ではありません。
そのため、日本独自のゴミ出しルールや分別方法を教えることで、外国人の日常生活のストレスを軽減することにつながります。
病院の利用方法
日本では、病状に応じて内科や皮膚科、整形外科など診療科を使い分けることが一般的です。しかし、発展途上国では病院は一括りであり、診療科目別に分かれていない場合もあります。
地方によっては、病院と薬局の区別が曖昧な地域もあるため、日本の病院の利用方法について教えてあげることも重要です。
生活の工夫
試験勉強が図書館でできることや、必要な家具をインターネットで安く購入する方法、携帯電話の料金を安くするコツなどを教えることも、外国人の日本での生活をスムーズにするために効果的な支援になります。
これらの支援は、外国人介護士が日常生活を快適に過ごすことにつながります。そして、仕事に集中できる環境をつくることができ、離職率の低下が期待できます。
離職防止策⑤:言語や文化の相互理解を行う
外国人介護士に日本の文化や職場のルールを理解してもらうだけでなく、日本人職員にも外国人介護士の文化や背景を理解してもらうことで、外国人介護士がより働きやすい環境が整い離職防止につながります。
日本人の特徴や文化の違いの例として、「空気を読む」といった言葉を使わないコミュニケーションや、時間に厳しい点などが挙げられます。一方、外国人介護士が多いアジア諸国の特徴として、時間に対して寛容的であったり、家族を優先する価値観を持っていたり、宗教信仰が強かったりすることが挙げられます。
お互いの文化を理解するために、朝礼やミーティング時に5分程度時間を取り、お互いの文化や習慣を紹介し合ったり、外国人介護士の母国語や伝統料理を紹介してもらう機会を作ったりすることで、職場内の相互理解を深めることができます。
離職を見越して外国人介護士を採用しやすい環境を整えよう
どのような対策を講じても在留資格の制限や家庭の事情で、外国人介護士が離職してしまうケースもあります。そのため、一定の割合で離職があることを見越して、外国人介護士を採用しやすい環境を整えることも重要です。主な施策は次の3点です。
- 複数国の外国人を採用する
- 外国人が働きやすい環境を整える
- 介護福祉士試験の合格実績を積み上げる
複数国の外国人を採用する
雇用している外国人が1ヶ国に偏ると、新たに優秀な人材が見つかったとしても、通訳の確保や国籍のバランスの問題で採用が難しくなる場合があります。複数国から人材を採用することで、このような機会損失を防ぐことができます。
外国人が働きやすい環境を整える
外国人が働きやすい環境整備では、人間関係や異文化理解といったソフト面が特に重要です。しかし、外国人介護士のための介護マニュアルの作成や翻訳、多言語翻訳機の導入などの目に見えるサポートは、外国人が介護施設を選ぶ際に大きな安心材料となります。
このような取り組みに対しては、自治体によって補助金を提供しているケースもあります。詳しくは、次の記事を参考にしてください。
介護福祉士試験の合格実績を積み上げる
特に有効な手段となるのが、介護福祉士試験の合格実績を積むことです。
多くの外国人介護士は、介護福祉士試験の合格を目指しています。試験に合格することで、在留資格「介護」が取得でき、家族を呼び寄せたり、在留資格の更新が無制限になったりするなど、大きなメリットがあるからです。
そのため、介護福祉士試験対策をサポートできる環境が整っていることは、外国人介護士が介護施設を選ぶ際の重要な要素の一つとなっています。
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まとめ
外国人介護士の離職率は、在留資格の制限などの理由から、現在は極端に低い状況にあります。しかし、今後は特定技能の外国人介護士の増加や育成就労制度の導入により、転職しやすくなるため、離職率は上昇すると予測されます。
外国人介護士は、既に多くの介護施設で不可欠な人材となっており、離職防止や採用しやすい環境を整えることが必要です。特に、介護福祉士試験の合格実績を積むことは既存の外国人介護士の定着度の向上に直結するとともに、新たに外国人材を採用する際にも、応募者にとって大きな魅力になります。
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