近年、日本における人手不足が深刻化しており、外国人を採用する企業が増えてきています。日本においては、従業員間でのコミュニケーションに日本語を用いることが多いため、外国人に対しても高い日本語レベルを求める傾向があります。
このような背景の中、外国人の在留資格獲得や企業の採用、評価などの場面で、日本語能力を確認するために利用されるのが「日本語能力試験(以降、「JLPT」)」と呼ばれる資格です。
一方で、外国人をはじめて採用する企業や外国人採用に慣れていない人事・教育担当者の中には、JLPTに関する知見が少ない方も多いのではないでしょうか?今回は、JLPTの概要や特徴、レベル別の難易度、学習時間の目安について解説します。
この記事を通して、外国人の採用や教育・育成、評価に関わっている方のJLPTに対する理解が深められ、それぞれの業務に活用されれば幸いです。
JLPTの概要
そもそも、JLPTとはどのような試験なのでしょうか?ここでは、JLPTの概要や受験するメリット、試験の特徴について紹介します。
試験の概要
JLPTとは、日本語を母語としない外国人の日本語能力を測る試験です。試験が開始された1984年以降、国際交流基金・日本国際教育支援協会が共同で運営しており、現在は世界最大規模の日本語試験として知られています。
受験者の目的もさまざまで、就職、昇給・昇格、自身の日本語能力の力試しなど、あらゆる場面で活用されています。
受験するメリット
では、外国人がJLPTを受験するメリットは何なのでしょうか?JLPTを受験する主なメリットは次のとおりです。
- 在留資格が獲得できる
- 資格試験の受験資格や優遇措置が得られる
- 出入国管理上の優遇措置が受けられる
- 日本語能力を向上できる
在留資格が獲得できる
外国人がJLPTを受験する最大のメリットは、在留資格が獲得できることです。
たとえば、特定技能人材の在留資格を得ることを目指している外国人がいるとします。特定技能1号の在留資格を得るためには、基本的にJLPTでN4以上のレベルに合格するか、JFT-Basicという試験でA2レベルに到達する必要があります。
特定技能1号の他にも、多くの在留資格が申請の要件としてJLPの保有を定めています。
このように、JLPTを受験することは、外国人が在留資格を得るために必要なステップであるといえるでしょう。
参照元:特定技能外国人受入れに関する運用要領(出入国在留管理庁)
資格試験の受験資格や優遇措置が得られる
外国人が受ける資格試験によっては、JLPTで一定以上の成績を修めることが受験の条件となっていることや、一定以上の成績を修めている人に対して優遇措置が与えられることがあります。
具体例としては、次の資格試験が挙げられます。
- 医師などの国家試験:海外の医師などの免許を持つ外国人が、日本で医師などの国家試験を受験するためには、JLPTでN1レベルの認定を受ける必要があります。なお、医師などの国家試験には、医師、歯科医師、看護師、薬剤師、保健師、助産師、診療放射線技師、歯科衛生士、歯科技工士、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、臨床工学技士、義肢装具士、救命救急士、言語聴覚士、獣医師、愛玩動物看護師を含みます。
- 准看護師試験:海外の看護師学校養成所を卒業した外国人が、日本で准看護師試験を受験するためには、JLPTでN1レベルの認定を受ける必要があります。
- 中学校卒業程度認定試験:外国人が、日本で中学校卒業程度認定試験を受験する際に、JLPTでN1もしくはN2レベルの認定を受けている場合、国語の試験が免除されます。
- EPA(経済連携協定)に基づく看護師・介護福祉士の候補者:EPAに基づき、フィリピンから来日する看護師・介護福祉士の候補者は、JLPTでN5レベルの認定を受ける必要があります。また、インドネシアから来日する同候補者はN4程度、ベトナムから来日する同候補者はN3以上の認定が必要となります。
このように、日本でさまざまな資格に挑戦する外国人にとって、JLPTは必要不可欠な試験なのです。
出入国管理上の優遇措置が受けられる
JLPTで一定以上の成績を修めると、出入国管理上の優遇措置を受けることが可能です。
日本では、優れた専門性や技術力を持つ外国人材(以下、「高度外国人材」)の受け入れを促進するために、「高度人材ポイント制度」という制度を導入しています。この制度は、学歴・職歴・年収などの項目ごとにポイントを設け、ポイントの合計が70点に達する場合に、出入国管理上の優遇措置を付与する制度です。
なお、高度外国人材の在留資格は、高度専門職1号と、高度専門職1号で3年以上活動した方が対象となる高度専門職2号に分かれます。具体的な優遇措置の内容は次のとおりです。
(1)高度専門職1号の場合
- 複合的な在留活動の許容
- 在留期間5年間の付与
- 在留歴にかかる永住許可要件の緩和
- 配偶者の就労
- 一定の条件のもとでの親の帯同
- 一定の条件のもとでの家事使用人の帯同
- 入国・在留手続きの優先処理
(2)高度専門職2号の場合
- 高度専門職1号の活動とあわせて、ほぼ全ての就労資格の活動を行うことが可能
- 無期限の在留期間の付与
- 在留歴にかかる永住許可要件の緩和
- 配偶者の就労
- 一定の条件のもとでの親の帯同
- 一定の条件のもとでの家事使用人の帯同
高度人材ポイント制度において、JLPTでN1レベルの認定を受けている場合には15ポイント、N2レベルの場合には10ポイントが加算されます。
長期的に日本で働きたい外国人にとって、高度外国人材になることは魅力的な選択肢の一つです。さまざまな優遇措置が得られる高度外国人材になるために、JLPTの資格を活用する外国人も多いといえるでしょう。
日本語能力を向上できる
JLPTを活用すると、日本語能力を向上させることが可能です。
JLPTのレベルが上がれば、覚えなければならない語句や文法もどんどん増えていきます。JLPTを受験し続けることで、外国人は効率よく日本語能力を向上させることができるといえるでしょう。そのため、自社の外国人材の日本語能力を上げるために、JLPTを受験させる教育担当者も多くなっています。
一方、後ほど詳しく紹介しますが、JLPTには「話す」「書く」に該当する試験がありません。日本語のスピーキングスキルやライティングスキルを磨くためには、JLPTとは異なる対策が必要となることは念頭に置いておきましょう。
試験の特徴
JLPTの試験にはどのような特徴があるのでしょうか?JLPT試験の主な特徴には次のものが挙げられます。
- 試験の構成要素
- レベルの選択
- 尺度得点制度
- レベル別Can-doリストの提供
試験の構成要素
JLPTの試験は「言語知識(文字・語彙・文法)」「読解」「聴解」の3つの要素で構成されています。試験は選択肢によるマークシート式となっており、「話す」「書く」能力を直接測る試験項目はありません。
このような点から、JLPTの受験者は、主に日本語のリーディングやリスニングを中心に勉強をしていると考えられます。そのため、外国人がJLPTで高いレベルに合格していたとしても、実際に日本人と対話したり、日本語の文章を書いたりすることには慣れていないことがあります。
レベルの選択
JLPTには、N5〜N1までの5段階のレベルがあります。受験者は自身の日本語能力にあわせて、一つのレベルを選んで受験します。日本人に身近なところでは、漢字検定や英語検定などと似ているシステムだといえるでしょう。
なお、日本語試験としてJLPT同様に利用されているJFT-Basicの場合は、試験を通してある程度の日常会話ができ、生活に支障がない程度である「A2レベル」に達しているかどうかを判定する仕組みになっています。そのため、受験者はJLPTのようにレベルを選択しません。このような点において、JLPTとJFT-Basicの違いがあるといえるでしょう。
尺度得点制度
JLPTには、尺度得点制度が導入されていることも特徴的です。尺度得点制度とは、テストの正答数で合否を判断するのではなく、ある共通のものさしに基づいてテストの得点を算出する制度です。
テストの正答数で合否を判断してしまうと、たとえ受験者の能力が同じだったとしても、試験の難易度によって違う得点になってしまうことがあります。これに対して、尺度得点制度では、統計的テスト理論に基づく「等化」という手法を用いています。
この手法を用いることで、試験の難易度に依存せず、受験者の日本語能力を公平に測ることができるのです。具体的な算出手続きについては、JLPTによる尺度得点に関する資料をご確認ください。
レベル別Can-doリストの提供
JLPTでは、政府や企業が試験の結果を解釈するための参考資料として、JLPT合格者と専門家の評価によるレベル別Can-doリストが提供されています。
JLPTに馴染みのない人は、外国人のJLPTにおける得点や合否だけを見ても、それらをどのように解釈すればよいのかがわかりません。そこで活用したいのが、JLPTのレベル別Can-doリストです。
JLPTのレベル別Can-doリストは、JLPTの受験者約65,000人に対して「日本語でどんなことができるか」をアンケート調査した結果をもとに、専門家による統計的な分析手続きを経て作成されています。Can-doリストは「聞く」「読む」「話す」「書く」の4つのセクションに分けられているため、それぞれの観点からどの程度の日本語能力がありそうかを推察することが可能です。
たとえば、N1レベルに合格している場合、日本語であまりなじみのない話題の会話がなされていたり、社会問題を扱うテレビのドキュメンタリー番組を見たりしたときにも、話の要点が理解できる程度の「聞く」力があるだろうと考えられます。
一方で、N5レベルに合格している場合の「聞く」力は、簡単な指示や、「いらっしゃいませ」「こちらへどうぞ」などの生活の場面でよく使う言葉が理解できる程度だろうと考えられます。
このように、Can-doリストを活用することで「外国人がJLPTでどのレベルに合格していたら、日本語を使ってどんなことができそうなのか」というイメージを作ることができるでしょう。
ただし、Can-doリストはあくまで読み手にイメージを持たせるものであり、実際に各レベルの合格者ができることを保証するものではないため注意が必要です。詳しい内容については、JLPTのレベル別Can-doリストを参照してください。
参照元:日本語能力試験 合格者と専門家の評価によるレベル別Can-doリストーわたしが日本語でできることー(日本語能力試験JLPT)
JLPTのレベルごとの難易度
JLPTのレベルごとの難易度はどのように設定されているのでしょうか?ここでは、N5~N1までの具体的な試験内容や、難易度について説明します。
N5・N4・N3・N2・N1の比較
前述のとおり、JLPTでは、N5~N1までの5つのレベルの中から、受験者にあったものを選択することが可能です。具体的には、下表のようにレベルが分けられており、それぞれに応じてレベルの目安が定められています。
レベル | レベルの目安 |
---|---|
N5 | ・基本的な日本語をある程度理解することができる。 ・読む:ひらがなやカタカナ、日常生活で用いられる基本的な漢字で書かれた定型的な語句や文、文章を読んで理解することができる。 ・聞く:教室や身のまわりなど、日常生活の中でもよく出会う場面で、ゆっくり話される短い会話であれば、必要な情報を聞き取ることができる。 |
N4 | ・基本的な日本語を理解することができる。 ・読む:基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を読んで理解することができる。 ・聞く:日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる。 |
N3 | ・日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる。 ・読む:日常的な話題について書かれた具体的な内容を表す文章を、読んで理解することができる。新聞の見出しなどから情報の概要をつかむことができる。日常的な場面で目にする難易度がやや高い文章は、言い換え表現が与えられれば、要旨を理解することができる。 ・聞く:日常的な場面で、やや自然に近いスピードのまとまりのある会話を聞いて、話の具体的な内容を登場人物の関係などとあわせてほぼ理解できる。 |
N2 | ・日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる。 ・読む:幅広い話題について書かれた新聞や雑誌の記事・解説、平易な評論など、論旨が明解な文章を読んで文章の内容を理解することができる。一般的な話題に関する読み物を読んで、話の流れや表現意図を理解することができる。 ・聞く:日常的な場面に加えて幅広い場面で、自然に近いスピードの、まとまりのある会話やニュースを聞いて、話の流れや内容、登場人物の関係を理解したり、要旨を把握したりすることができる。 |
N1 | ・幅広い場面で使われる日本語を理解することができる。 ・読む:幅広い話題について書かれた新聞の論説、評論など、論理的にやや複雑な文章や抽象度の高い文章などを読んで、文章の構成や内容を理解することができる。さまざまな話題の内容に深みのある読み物を読んで、話の流れや詳細な表現意図を理解することができる。 ・聞く:幅広い場面において自然なスピードの、まとまりのある会話やニュース、講義を聞いて、話の流れや内容、登場人物の関係や内容の論理構成などを詳細に理解したり、要旨を把握したりすることができる。 |
※日本語能力試験 認定の目安(日本語能力試験JLPT)を参考に作成
各レベルの具体的な試験内容
JLPTの試験は「言語知識(文字・語彙・文法)」「読解」「聴解」の3つの要素で構成されています。具体的な試験科目や試験時間はレベルごとに異なります。
N5~N1レベルの具体的な試験科目と試験時間は、下の表のとおりです。
レベル | 試験科目【試験時間】 | 全体の試験時間 |
---|---|---|
N5 | ・言語知識(文字・語彙)【20分】 ・言語知識(文法)・読解【40分】 ・聴解【30分】 | 90分(1時間30分) |
N4 | ・言語知識(文字・語彙)【25分】 ・言語知識(文法)・読解【55分】 ・聴解【35分】 | 115分(1時間55分) |
N3 | ・言語知識(文字・語彙)【30分】 ・言語知識(文法)・読解【70分】 ・聴解【40分】 | 140分(2時間20分) |
N2 | ・言語知識(文字・語彙・文法) ・読解【105分】 ・聴解【50分】 | 155分(2時間35分) |
N1 | ・言語知識(文字・語彙・文法) ・読解【110分】 ・聴解【55分】 | 165分(2時間45分) |
※試験科目と問題の構成(日本語能力試験JLPT)を基に作成
また、JLPTでは「言語知識(文字・語彙・文法)」「読解」「聴解」のそれぞれの試験科目において出題される問題の概要が定められています。具体的には次のとおりです。
(1)言語知識(文字・語彙)
- 漢字読み:漢字で書かれた語を正しく読めるか
- 表記:ひらがなで書かれた語を漢字、またはカタカナで正しく表記できるか
- 語形成:派生語や複合語など、複数の語の組み合わせを正しく結合できるか
- 文脈規定:文中の空欄に前後の文脈から適切な語を入れられるか
- 言い換え類義:提示された語や表現について、それと意味的に近い語や表現を選択できるか
- 用法:提示された語を正しい用法で使用できるか
(2)言語知識(文法)
- 文の文法:語と語を結びつけて意味の通る文にするためにどうすればよいか
- 文章の文法:文と文を結びつけてまとまりのある文章にするためにどうすればよいか
(3)読解
- 内容理解:言語知識を利用して、テキストの細かい部分を注意深く読み、的確に理解できるか。また、N1~N3では、テキストの全体像を的確に把握し、大意を読み取り、キーワードを押さえ、論理展開をとらえることができるか
- 主張理解:テキストが全体として伝えようとしている主張や意見を読み取れるか
- 統合理解:一つのテキストを読み進めながら、内容的に関連がある他のテキストと関係づけ、共通点や相違点を比較し、複数のテキストの内容を統合して理解することができるか
- 情報検索:テキストの中から目的や課題に合わせて必要な情報を探し出すことができるか
(4)聴解
- 課題理解:具体的な課題の解決に必要な情報を聞き取り、適切な行動が選択できるか
- ポイント理解:内容のポイントを絞って聞くことができるか
- 概要理解:テキスト全体から話者の意図や主張などを理解できるか
- 統合理解:内容がより複雑で情報量が多いテキストについて、内容を理解できるか
- 即時応答:相手の発話にふさわしい応答を瞬時に判断できるか
- 発話表現:場面や状況にふさわしい発話を瞬時に判断できるか
N5~N1のそれぞれのレベルに応じて、これらの問題の出題有無が変わります。具体的なレベル別の問題構成は、下表の通りです。
試験科目 | 大問 | N5 | N4 | N3 | N2 | N1 | |
言語知識 | 文字・語彙 | 漢字読み | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
表記 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ー | ||
語形成 | ー | ー | ー | 〇 | ー | ||
文脈規定 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
言い換え類義 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
用法 | ー | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
文法 | 文の文法1(文法形式の判断) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
文の文法2(文の組み立て) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
文章の文法 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
読解 | 内容理解(短文) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
内容理解(中文) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
内容理解(長文) | ー | ー | 〇 | ー | 〇 | ||
統合理解 | ー | ー | ー | 〇 | 〇 | ||
主張理解(長文) | ー | ー | ー | 〇 | 〇 | ||
情報検索 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
聴解 | 課題理解 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
ポイント理解 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
概要理解 | ー | ー | 〇 | 〇 | 〇 | ||
発話表現 | 〇 | 〇 | 〇 | ー | ー | ||
即時応答 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
統合理解 | ー | ー | ー | 〇 | 〇 |
※:試験科目と問題の構成(日本語能力試験JLPT)を基に作成
問題の内容など、より詳しい内容については、JLPTが公開しているガイドブックに掲載されています。また、実際の問題例については、公式問題集などを参考にしてください。
参照元:
N5の難易度
JLPTにおけるN5レベル認定の目安は、基本的な日本語をある程度理解することができる程度とされています。
たとえば、ひらがなやカタカナ、日常生活で用いられる基本的な漢字で書かれた定型文などを読んで理解できる程度のリーディングスキルが求められます。また、日常生活におけるよくある場面で、ゆっくりと話される短い会話であれば、必要な情報が聞き取れる程度のリスニングスキルも必要です。
このような点から、外国人がN5レベルを受験する難易度は比較的易しいといえるでしょう。
とはいえ、日本語にはひらがな・カタカナ・漢字と3種類の表記方法があり、外国人にとって日本語は習得が最も難しい言語の一つです。最も難易度が易しいN5レベルであったとしても、しっかり勉強をしなければ合格できないため注意しましょう。
N4の難易度
JLPTにおけるN4レベル認定の目安は、基本的な日本語を理解することができる程度とされています。
たとえば、基本的な語彙や漢字を使って書かれた身近な話題の文章を読んで理解できる程度のリーディングスキルが求められます。また、ややゆっくりと話される日常会話の内容がほぼ理解できる程度のリスニングスキルも必要です。
なお、特定技能1号の資格を取得するためには、N4以上の日本語能力が求められます。
このような点から、外国人がN4レベルを受験する難易度はやや高いといえるでしょう。
N3の難易度
JLPTにおけるN3レベル認定の目安は、日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる程度とされています。
たとえば、日常的な話題について書かれたわかりやすい文章や、新聞の見出しなどを読んで概要を理解できる程度のリーディングスキルが求められます。また、やや自然に近いスピードの日常会話を聞いて、話の内容や登場人物の関係をほとんど理解したりできる程度のリスニングスキルも必要です。
なお、漁業分野と外食業分野においては、特定技能2号の資格を取得するためにN3以上のレベルが求められます。
このような点から、外国人がN3レベルを受験する難易度は高いといえるでしょう。
N2の難易度
JLPTにおけるN2レベル認定の目安は、日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解できる程度と定義されています。
たとえば、新聞や雑誌、比較的易しい評論などのわかりやすい文章を読んで内容が理解できる程度のリーディングスキルが求められます。
また、自然に近いスピードの日常会話やニュースを聞いて、話の流れや内容、登場人物の関係を理解したり、要旨を理解したりできる程度のリスニングスキルも必要です。
なお、外国人が日本で中学校卒業程度認定試験を受験する際に、JLPTでN2レベル以上の認定を受けていたら国語の試験が免除されます。つまり、N2レベルとは、おおよそ日本人の中学校卒業レベルの日本語力であるといえるでしょう。
このような点から、外国人がN2レベルを受験する難易度はかなり高いといえるでしょう。
N1の難易度
JLPTにおけるN1レベル認定の目安は、幅広い場面で使われる日本語を理解することができる程度です。
たとえば、新聞の諭説や評論など、複雑で抽象度の高い日本語を理解できる程度のリーディングスキルが求められます。また、自然なスピードの日本語の会話や、ニュース番組、講義などを聞いたときに、話の流れや内容、登場人物の関係、論理構成などを詳しく理解できる程度のリスニングスキルも必要です。
なお、外国人が日本で医師などの国家試験を受験する際にも、N1レベルの日本語能力が求められます。つまり、N1レベルとは、医師として患者に接するレベルの日本語力であるといえます。
このような点から、外国人がN1レベルを受験する難易度は非常に高いといえるでしょう。
JLPT学習時間の目安
外国人がJLPTの各レベルに合格するには、どの程度の学習時間が必要なのでしょうか?ここでは、JLPTの学習時間の目安と1日あたり2時間程度の学習を継続した場合の学習期間、1時間程度の学習を継続した場合の学習期間について解説します。
※仕事の前後に1日2時間の学習を継続した場合を想定
N5合格に必要な学習時間の目安
JLPTのN5レベルに合格するためには、およそ200時間程度の学習時間が必要です。1日あたり2時間程度の学習を継続した場合、学習期間の目安は3.3ヶ月程度になるでしょう。
同様に、1日あたり1時間程度の学習を継続した場合は、学習期間は6.7ヶ月程度になります。
N4合格に必要な学習時間の目安
JLPTのN4レベルに合格するためには、およそ350時間程度の学習時間が必要です。1日あたり2時間程度の学習を継続した場合、学習期間の目安は5.8ヶ月程度になるでしょう。
同様に、1日あたり1時間程度の学習を継続した場合は、学習期間は11.7ヶ月程度になります。
N3合格に必要な学習時間の目安
JLPTのN3レベルに合格するためには、およそ500時間程度の学習時間が必要です。1日あたり2時間程度の学習を継続した場合、学習期間の目安は8.3ヶ月程度になるでしょう。
同様に、1日あたり1時間程度の学習を継続した場合は、学習期間は16.7ヶ月(1年4.7ヶ月)程度になります。
N2合格に必要な学習時間の目安
JLPTのN2レベルに合格するためには、およそ650時間程度の学習時間が必要です。1日あたり2時間程度の学習を継続した場合、学習期間の目安は10.8ヶ月程度になるでしょう。
同様に、1日あたり1時間程度の学習を継続した場合は、学習期間は21.7ヶ月(1年9.7ヶ月)程度になります。
N1合格に必要な学習時間の目安
JLPTのN1レベルに合格するためには、およそ750時間程度の学習時間が必要です。1日あたり2時間程度の学習を継続した場合、学習期間の目安は12.5ヶ月(1年0.5ヶ月)程度になるでしょう。
同様に、1日あたり1時間程度の学習を継続した場合は、学習期間は25ヶ月(2年1ヶ月)程度になります。
JLPTの合格率・応募者の概要
JLPTの合格率はどのようになっているのでしょうか?ここでは、JLPTの合格率や、応募者のデータについて紹介します。
レベルごとの合格率
まずは、レベルごとの合格率について見ていきましょう。直近のJLPTにおける過去の試験のデータ(2023年12月)によると、国内・海外を含む計663,295名の受験者に対し、基準点以上のレベルになった人数は206,336名で、全体の31.1%でした。
なお、特定技能1号の資格を取得するために必要とされるN4レベルにおいても、合格率は31.6%となっています。このことから、JLPTは十分に日本語の勉強をしている方が合格できる試験だといえるでしょう。
受験者数 | 合格者数 (認定者数) | 合格率 (認定率) | ||
合計 | 663,295 | 235,754 | 35.50% | |
レベル別 | N5 | 63,037 | 29,418 | 46.70% |
N4 | 149,334 | 47,243 | 31.60% | |
N3 | 164,700 | 57,733 | 35.10% | |
N2 | 164,670 | 63,807 | 38.70% | |
N1 | 121,554 | 37,553 | 30.90% |
※過去の試験のデータ(2023年第2回(12月)データ)(日本語能力試験JLPT)を基に作成
※国内・海外を含む全ての受験者数・合格者数
応募者のデータ
次に、JLPTを受験する応募者のデータについて確認していきましょう。
JLPTを受験する応募者の属性としては、学生から社会人までさまざまです。中でも割合が最も大きいのは「大学・大学院生(高等教育)」で、全体の42.2%を占めています。次に割合が大きいのは「就業(会社員・公務員・教員・自営等)」で、全体の27.6%です。このことから、学生だけではなく、多くの社会人がJLPTを利用していることがわかるでしょう。
応募者の属性 | 割合 |
---|---|
小学生(初等教育) | 2.3% |
中学・高校生(中等教育) | 11.7% |
大学・大学院生(高等教育) | 42.2% |
語学学校等その他の教育機関の学生 | 6.0% |
就業(会社員・公務員・教員・自営等) | 27.6% |
その他 | 9.0% |
無回答 | 1.1% |
※データで見る日本語能力試験(日本語能力試験JLPT)を基に作成
また、応募者の受験理由も多種多様です。最も割合が大きいのは「自分の実力が知りたい」という理由で、33.2%を占めています。また、日本での仕事や就職、昇給、昇進に役立てるためにJLPTを活用している人は全体の10.3%です。日本語を勉強している外国人の中でも、実際に来日して働こうとしている方はそこまで多くないことがわかります。
応募者の受験理由 | 割合 |
---|---|
大学や大学院入学に必要(自分の国で) | 7.5% |
大学や大学院入学に必要(日本で) | 10.0% |
その他の教育機関への入学や能力証明に必要(自分の国で) | 4.6% |
その他の教育機関への入学や能力証明に必要(日本で) | 4.5% |
自分の仕事やこれからの就職・昇給・昇進に役立つ(自分の国で) | 23.1% |
自分の仕事やこれからの就職・昇給・昇進に役立つ(日本で) | 10.3% |
自分の実力が知りたい | 33.2% |
その他 | 5.8% |
無回答 | 1.0% |
※データで見る日本語能力試験(日本語能力試験JLPT)を基に作成
人手不足に悩まされる日本企業にとって、外国人材はありがたい存在です。一方で、外国人にとって、日本語を勉強したうえで日本での就業を目指すことはハードルが高いことです。
近年、技能実習生を筆頭に、職場での外国人材に対する差別や過酷な労働環境が問題視されています。日本は島国であることもあり、文化や言語の異なる外国人と協働することに慣れていない方も多いです。日本語の通じにくさや異文化に対する受け入れがたさを理由に、差別や偏見を持たれる方もいるかもしれません。
さまざまな障壁を超えて日本で就業しようとする外国人材には、日本で気持ちよくのびのびと働いてもらいたいところです。まずは、ともに働く目の前の外国人材に想いを馳せ、大切に育成していきたいものです。
JLPT学習のポイント
JLPTを効率的に学習するポイントはあるのでしょうか?ここでは、外国人がJLPTを学習する際に意識したいポイントについて解説します。
- 目指すレベルと目標を設定する
- 学習計画を作成する
- 問題集を繰り返し解く
目指すレベルと目標を設定する
まずは、外国人がJLPTで目指すべきレベルと目標を設定しましょう。
前述のとおり、JLPTはさまざまな在留資格や国家資格などの条件として設定されています。「雇用している外国人材をよりよい在留資格にステップアップさせたい」など、わかりやすいゴールがある場合には、その条件となるレベルを最終的な目標として設定しましょう。現状のレベルと最終的な目標に乖離がある場合は、一つずつ受験するレベルを上げていくことで、目標に到達しやすくなります。
また、JLPTを外国人の継続的な日本語能力の向上のために取り入れる場合には、今のレベルの一つ上を目指すなど、段階的にステップアップするのが望ましいでしょう。
外国人の置かれた環境やJLPTを利用する目的に応じて、具体的に目指すべきレベルや目標を設定してください。
学習計画を作成する
JLPTの学習においては、学習スケジュールを作成することが非常に重要です。
外国人にとって、日本語は習得難易度が高い言語の一つであり、JLPTを一朝一夕で合格するのは極めて難しいといえます。JLPT合格に向けては、日々の継続的な日本語学習が求められます。
学習スケジュールを作成する際には、次の点を考慮に入れる必要があります。
- レベルごとの学習時間:「JLPT学習時間の目安」でお伝えした学習時間を参考に目指すレベルの学習時間と、外国人本人が実現可能な1日あたりの学習時間から、合格に必要な学習期間を割り出しましょう。
- JLPTの試験日:JLPTの試験は1年に2回程度しか実施されません。より条件のよい在留資格を獲得するために勉強していたが、在留期限までにJLPTに合格することができず、帰国せざるを得なくなってしまった方もいます。次の試験までの日数も考慮に入れながら、学習スケジュールを立てる必要があるでしょう。
一方、日本の暮らしや日本企業での仕事に慣れない中で、外国人が継続的に日本語を学び続けるのはなかなか難しいものです。
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問題集を繰り返し解く
JLPTに合格するためには、問題集を繰り返し解くことが重要です。
JLPTの場合、試験問題の構成や出題の傾向がある程度定まっています。そのため、レベル別の問題集を繰り返し解くことで、試験形式や試験範囲の日本語に慣れることができるでしょう。
JLPTの公式ホームページから、レベル別の公式問題集を無料でダウンロードできます。受験に向けて、公式問題集については繰り返し解くようにしましょう。また、レベル別の日本語に対する理解を深めるために、市販のテキスト・教材を参考として使うこともできます。
外国人本人にとって使いやすい教材を活用し、継続的に学習することが重要です。
JLPTの学習には外国人向けオンライン日本語学習サービスがおすすめ
JLPTに合格するためには、長期的に日本語を勉強し続ける必要があります。一方で、日々の仕事や生活に忙しい中で、外国人が日本語を学習する時間を捻出するのはなかなか難しく、悩まれている人事・教育担当者の方も多いのではないでしょうか?
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最後に、明光グローバルの概要と、提供するサービスを紹介します。
明光キャリアパートナーズについて
明光キャリアパートナーズは、「明光義塾」を運営する株式会社明光ネットワークジャパンのグループ会社のひとつで、Japanyを運営する教育サービス企業です。
長年の教育ノウハウを活かし、外国人材の日本語教育とキャリアサポートを得意としており、特定技能人材の育成にも積極的に取り組んでいます。
主な事業内容には次のものがあります。
- Japany(外国人向けオンライン日本語学習サービス)
- キャリスター(20代向けのキャリア支援サービス)
- career rep.(20代ハイキャリア向け支援サービス)
- MEIKO GLOBAL(外国人向け人材紹介・研修サービス)
明光キャリアパートナーズの企業理念として、個人のキャリアと企業からの人材ニーズをマッチさせ、日本企業と世界企業の発展に貢献することを目指しています。
Japanyとは
Japanyは、スマートフォンやタブレット、PCからいつでも利用できるオンライン日本語学習サービスです。各種試験対策や業界特有の専門用語、日常会話に必要な日本語の知識など、幅広いコンテンツを提供しています。
Japanyの強み
Japanyの強みは、主に次の3点です。
- 明光オリジナルコンテンツ
- 学習の継続を促すシステム
- “教育のプロ”の視点で導入をサポート
明光オリジナルコンテンツ
明光キャリアパートナーズは独自に開発した、外国人向けの日本語学習サービスを3つ提供しています。
- e-learning「日本語をインプットする」:1,200本以上の学習動画を視聴可能。確認テストを搭載しているため、学習の定着度の確認も好きなタイミングで可能。学習管理機能がついている動画コンテンツを1,000本以上視聴できる。
- Lesson「日本語をアウトプットする」:Japanyで習得した日本語の知識を使って、レッスンで実践的なアウトプット練習、職場ですぐに使えるコミュニケーション力を養う(e-learningデータから受講者に応じてコースを提供)。
- Test「効果を測定する」:現状の日本語能力を可視化する(目標までの進捗を確認する)。
学習の継続を促すシステム
Japanyでは、3つのサービスにより学習の継続を促す、日本語の定着を目指すシステムが採用されています。これまでに培った明光式の学習理論に基づき、次の流れに沿って学習します。
- 現状の日本語能力を見える化する
- 長期的な目標を設定する
- 短期的な目標設定・学習計画の作成を行う
- 知識をインプットする
- 学んだ知識をアウトプットする
- 繰り返し実践して定着させる
3~6を繰り返すことで、現場で使えるリアルな日本語の習得が可能となるでしょう。
“教育のプロ”の視点で導入をサポート
Japanyは、教育のプロの視点から企業それぞれにマッチしたサービスの導入をサポートしてくれます。
これまでにもさまざまな教育機関で日本語教育のプログラムはありましたが、多くのサービスが導入しても使ってもらえないという現状がありました。しかし、Japanyでは「学習管理機能」を使って、学習管理者が学習者の受講状況を把握することで、定期的なフォローアップが可能となっています。
また、各企業の実情に応じてカリキュラムをカスタマイズできることも大きな魅力です。
まとめ
JLPTの概要や特徴、外国人がJLPTを学習するのにかかる時間の目安、JLPT学習のポイントなどについて解説しました。
JLPTは試験日が限られているため、合格に向けて確度の高い学習スケジュールを立てることが重要です。外国人材の日本語学習を効果的にサポートするには、明光グローバルが提供するオンライン日本語学習サービス「Japany(ジャパニー)」の導入がおすすめです。明光オリジナルコンテンツと継続的な学習支援システムにより、日本語能力を効率的に習得させることができるでしょう。少しでもご興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。