2019年に新設された在留資格「特定技能」ですが、「まだまだ始まったばかりだから認知されてないよね」「全然聞かないから人数も少ないでしょう?」こんな話をよく耳にします。
この手の話をする際に、具体的な人数が語られることは少ないです。そこで今回は、特定技能で在留している外国人材は何人いるのか、産業分野別に具体的に解説します。
特定技能在留外国人数の最新状況
2024年6月末時点での特定技能在留外国人数は251,594人に達しました。これは、制度開始から5年間での大きな成長を示しています。この成長の背景には、次の要因があります。
- コロナ禍からの回復に伴う入国制限の緩和
- 企業の人手不足の深刻化
- 技能実習からの在留資格移行の進展
在留外国人数の推移と現状
2024年6月末現在、在留資格「特定技能」(特定技能2号は除く)は12分野合計で251,594名の在留人数となっています。
2019年の制度開始以降、特定技能在留外国人数は急速に増加しています。その背景には、コロナ禍による一時的な停滞を乗り越え、入国制限の緩和とともに受け入れが本格化したことが主な理由です。
その他の増加の要因としては、次の3つが挙げられます。
- 企業の人手不足の深刻化
- 国内外での技能試験実施回数の増加
- 技能実習生からの在留資格移行の進展
また、分野別で見ると増加傾向が目立つ産業がわかります。
- 飲食料品製造業:70,213人(全体の27.9%)
- 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業:44,067人(全体の17.5%)
- 介護:36,719人(全体の14.6%)
- 建設:31,919人(全体の12.7%)
- 農業:27,807人(全体の11.0%)
コロナ禍前の予測では、5年間で約35万人の受け入れを見込んでいましたが、この目標達成も視野に入ってきています。特に飲食料品製造業や素形材産業、介護分野での増加が顕著となっています。
出入国在留管理庁から四半期ごとに最新の情報が発表されますので、今後も要チェックです!
分野別の在留外国人数データ
2023年度以前は、特定技能制度における5年間の受け入れ見込み人数は最大で約34.5万人と設定されていました。しかし、企業の人手不足の深刻化などにより2024年度からの5年間では、約2.4倍の82万人まで受け入れ見込み数を増加させることが決定しました。
参照元:特定技能制度の受入れ見込数の再設定(出入国在留管理庁)
特定技能在留外国人の受け入れ状況は、分野によって大きな差が生じています。2024年6月末時点の統計によると、最も受け入れが進んでいるのは製造業分野です。
- 飲食料品製造業:70,213人(全体の27.9%)
- 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業:44,067人(全体の17.5%)
この2分野だけで全体の45.4%を占めており、製造業での受け入れが特に活発であることが分かります。一方で、航空分野(864人)や宿泊分野(401人)は受入れ数が少なく、全体の1%にも満たない状況です。
産業分野別で大きな差が出ているのは、業種ごとの人手不足の深刻さや、外国人材の技能習得のしやすさが影響していると考えられます。
参照元:【第1表】主な国籍・地域別 特定産業分野別 特定技能1号在留外国人数(法務省)
国籍別・地域別の分布状況
特定技能在留外国人の出身国は、ベトナムが圧倒的多数を占めています。
2024年6月末時点の統計では、次の順位となっています。
- ベトナム出身者:126,832人(全体の50.4%)
- インドネシア出身者:44,305人(全体の17.6%)
- フィリピン出身者:25,311人(全体の10.1%)
以上の結果より、東南アジアからの受け入れが中心となっていることがわかります。
また、地域別の分布を見ると、大規模な工業地帯を持つ都道府県での受入れが目立ちます。
- 愛知県:20,757人(全体の8.2%)
- 大阪府:16,543人(全体の6.6%)
- 埼玉県:15,530人(全体の6.2%)
上位10都道府県で全体の約55%を占めており、製造業が集積する地域での受入れが特に進んでいます。特定技能外国人の分布は、産業構造や雇用需要と密接に関連していることがわかります。
特定技能の受け入れ人数制限とは
特定技能制度では、企業ごとの受け入れ人数に制限はありませんが、建設分野と介護分野に限っては、企業規模に応じた人数制限が設けられています。その理由は、外国人材の適切な就労環境を確保し、質の高い技能実習を実現するために設けられた重要なルールだからです。
建設分野では常勤職員数との関係で、介護分野では事業所ごとの日本人職員数との比率で、それぞれ受入れ可能な人数が定められています。では、建設分野、介護分野、その他分野について、それぞれ具体的な人数制限の内容について解説します。
建設分野における人数制限
建設分野における特定技能外国人の受け入れには、人数制限が設けられています。人数制限の基本ルールは、受入れ企業の常勤職員数(特定技能外国人・技能実習生・特定活動の在留資格を持つ外国人を除く)と同数までが上限です。
たとえば、常勤職員が30人の企業であれば、特定技能外国人は最大30人まで受け入れ可能です。
人数制限に加えて、建設分野では次の追加要件も必要です。
- 建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録
- 特定技能外国人受入事業実施法人(JAC)への加入
- 受入れ計画の作成と国土交通大臣による認定
- 外国人材に対する安定的な賃金支払いの保証(日本人と同等以上の報酬)
- 技能習熟に応じた昇給制度の整備
以上の要件が設けられている理由は、建設現場特有の課題があるためです。工事現場が変わることで就労場所が変動したり、季節や受注状況で報酬が変動したりするため、外国人材の適切な就労環境を確保するための慎重な管理が必要とされています。
介護分野における人数制限
介護分野の特定技能外国人受け入れでは、事業所ごとに明確な人数制限が設けられています。人数制限の基本的なルールは、各事業所単位での常勤介護職員の総数と同数までです。
たとえば、企業全体では50名の常勤介護職員がいたとしても、15人の事業所であれば、特定技能外国人は最大15人まで受入れできます。
ルール自体は建設分野と変わりませんが、重要な点は「常勤介護職員」の定義です。介護分野では、次の職員が常勤介護職員としてカウントされます。
- 日本人の常勤介護職員
- EPA介護福祉士(介護福祉士国家試験合格者)
- 在留資格「介護」で就労している外国人
- 永住者や日本人の配偶者等の身分・地位に基づく在留資格を持つ介護職員
一方で、次の職員は常勤介護職員数には含まれません。
- 特定技能1号の外国人材
- 留学生
- 技能実習生
- EPA介護福祉士候補者
- 看護師及び准看護師
なお、特定技能1号の外国人材が介護分野で3年以上の実務経験を積み、実務者研修を修了して介護福祉士試験に合格すると、在留資格を「介護」に変更できます。この場合は常勤介護職員としてカウントされ、事業所の受入れ可能人数の計算にも反映されます。
その他分野の人数制限
建設・介護以外の分野では、各企業の受入れ人数に具体的な制限は設けられていません。その理由は、深刻な人手不足に対応するため、企業の実情に応じて柔軟に人材確保を可能にする狙いがあります。
ただし、国全体としては受け入れの上限が設定されています。2024年度から2028年度までの5年間における受入れ見込み数は、全産業合計で82万人です。
15分野の内訳は、次のような設定となっています。
- 工業製品製造業:173,300人
- 飲食料品製造業:139,000人
- 介護:135,000人
- 建設:80,000人
- 農業:78,000人
- 外食業:53,000人
- ビルクリーニング:37,000人
- 造船・舶用工業分野:36,000人
- 自動車運送業:24,500人
- 宿泊:23,000人
- 漁業:17,000人
- 自動車整備:10,000人
- 木材産業:6,000人
- 航空:4,400人
- 鉄道:3,800人
各分野の受入れ見込み数は、人手不足の実態や今後の需要予測に基づいて設定されています。2019年の制度開始時と比べると大幅に増加しており、特に製造業分野では前回の約3.5倍となる見込み数です。
受け入れ見込み数の拡大は、深刻化する人手不足への対応を一層強化する政府の方針を反映したものといえるでしょう。
特定技能の受入れ見込み数と現状
特定技能制度における受入れ見込み数は、2024年3月の閣議決定により大幅な見直しが行われました。2024年度からの5年間で全産業合計82万人という新たな目標が設定され、これは前回の見込み数の約2.4倍にあたります。
この見直しの背景には、深刻化する人手不足への対応と、特定技能外国人受入れの実績が着実に積み重ねられてきたことがあります。では、新たな受入れ見込み数の詳細と、現在の達成状況について、具体的な数字をもとに解説します。
2024年度から2028年度における新たな目標人数
特定技能制度の受入れ見込み数は、2024年3月の閣議決定により大幅な引き上げが行われました。
新たな目標では、2024年度から2028年度までの5年間で全分野合計82万人の受入れを見込んでいます。前回(2019年度〜2023年度)の34.5万人と比べて約2.4倍という大幅な増加です。
受入れ見込み数を前回の数字と比較すると、分野別の違いが見えてきます。
分野名 | 5年間の受け入れ見込み数 | 増加率 | |
2019年~2023年 | 2024年~2028年 | ||
工業製品製造業 | 31,450人 | 173,300人 | 5.51倍 |
飲食料品製造業 | 34,000人 | 139,000人 | 4.08倍 |
造船・舶用工業分野 | 13,000人 | 36,000人 | 2.76倍 |
介護 | 60,000人 | 135,000人 | 2.25倍 |
農業 | 36,500人 | 78,000人 | 2.13倍 |
建設 | 40,000人 | 80,000人 | 2.00倍 |
航空 | 2,200人 | 4,400人 | 2.00倍 |
漁業 | 9,000人 | 17,000人 | 1.88倍 |
自動車整備 | 7,000人 | 10,000人 | 1.42倍 |
宿泊 | 22,000人 | 23,000人 | 1.04倍 |
外食業 | 53,000人 | 53,000人 | 1.00倍 |
ビルクリーニング | 37,000人 | 37,000人 | 1.00倍 |
自動車運送業 | ※注 | 24,500人 | ー |
木材産業(林業) | ※注 | 6,000人 | ー |
鉄道 | ※注 | 3,800人 | ー |
※注:2024年3月に閣議決定により追加された分野。
参照元:
増加率から「工業製品製造業」「飲食料品製造業」が、顕著に受け入れ人数が増えています。その結果、特定技能制度は人手不足解消の切り札として、今後も継続した需要が見込まれるでしょう。
分野別の目標達成状況
特定技能制度における分野別の目標達成状況は、分野ごとに大きな差が生じています。
2023年12月末時点での達成状況は次のとおりです。
分野名 | 2019年~2023年 受け入れ見込み | 2023年12月末 までの受け入れ実績 | 達成率 |
---|---|---|---|
飲食料品製造業 | 34,000人 | 61,095人 | 179.6% |
工業製品製造業 | 31,450人 | 40,069人 | 127.4% |
農業 | 36,500人 | 23,861人 | 65.3% |
建設 | 40,000人 | 24,433人 | 61.0% |
造船・舶用工業分野 | 13,000人 | 7,514人 | 57.8% |
介護 | 60,000人 | 28,400人 | 47.3% |
自動車整備 | 7,000人 | 2,519人 | 35.9% |
漁業 | 9,000人 | 2,669人 | 29.6% |
航空 | 2,200人 | 632人 | 28.7% |
外食業 | 53,000人 | 13,312人 | 25.1% |
ビルクリーニング | 37,000人 | 3,520 | 9.5% |
宿泊 | 22,000人 | 401人 | 1.8% |
自動車運送業 | ※注 | ー | ー |
木材産業(林業) | ※注 | ー | ー |
鉄道 | ※注 | ー | ー |
※注:2024年3月に閣議決定により追加された分野。
参照元:
「工業製品製造業」「飲食料品製造業」は、受け入れ見込み数を超過している現状から、人気が集中していることが見てとれます。反対に、宿泊業や航空分野は、コロナ禍で大きな打撃を受けた業界であり、外国人材の受け入れよりも事業の建て直しを優先せざるを得ない状況が続いていました。
今後、アフターコロナの需要回復とともに、達成率が低い分野でも受入れの加速が期待されています。
まとめ
特定技能在留外国人の受入れ状況と制度について解説しました。
解説したことの要点をまとめると次のとおりです。
- 特定技能在留外国人数は、2024年6月末時点で251,594人に達している
- 分野別受入数では、飲食料品製造業が最多となっている
- 建設・介護分野では企業規模に応じた人数制限がある
- 2024年度からの5年間で全産業合計82万人という新たな受け入れ目標が設定された
特定技能制度は、深刻な人手不足を解消するための切り札として、今後ますます重要性を増すと予想されます。企業には、自社の状況に応じた受け入れ計画の立案と、外国人材の活用が求められます。