「育成就労制度の問題点は何か?」「どのような対策を講じれば良いのか?」このような疑問をお持ちの企業の方も多いことでしょう。
育成就労制度は2026年から段階的に施行され、2027年以降本格的な運用が開始される予定です。この制度の導入に伴い、企業側には費用負担増加や人材流出リスクなどの課題が指摘されています。
今回は、育成就労制度の主な問題点と具体的な対応策について、実務的な観点から詳しく解説します。企業の規模や状況に応じて効果的な対策の立案にお役立てください。
育成就労制度とは?技能実習制度との主な違い
2027年までに施行される予定の育成就労制度は、現行の技能実習制度に代わる新しい在留資格です。制度の目的や受入可能な職種、転籍条件など、多くの面で変更が加えられます。主な違いを理解することは、企業の人材確保戦略を立てる上で重要です。
まずは、なぜ技能実習制度が見直されることになったのか、その背景について解説します。
技能実習制度が廃止され育成就労制度に変更される背景
技能実習制度は数々の問題点が指摘され、抜本的な見直しを迫られていました。その理由は、制度本来の目的である「国際貢献」と実態が大きく乖離していたためです。
元々は途上国への技術移転を目指していましたが、実際には低賃金労働力の手段として利用されるケースが目立っていました。その結果、技能実習生に対して次のような人権侵害が発生しています。
- 技能実習生への賃金未払い
- 長時間労働の強要
- パスポートの取り上げ
このような問題により、失踪する実習生も相次ぎ、国際社会からも「現代の奴隷制度だ」と厳しい批判を受けています。日本政府は問題を解決するため、外国人労働者の権利を保護し、適切な育成環境を整えた育成就労制度への移行を決定しました。
技能実習制度と育成就労制度の5つ違い
技能実習制度と育成就労制度では、5つの点で大きな違いがあります。それぞれの主な相違点を表にまとめると次のとおりです。
技能実習制度と育成就労制度の違い
項目 | 育成就労制度 | 技能実習制度 |
---|---|---|
制度の目的 | 人材確保と育成 | 国際貢献・技術移転 |
在留資格の呼称 | 育成就労 | 技能実習1号、2号、3号 |
受入可能職種 | 特定技能と同じ16分野 | 90職種165作業 |
転籍の可否 | 一定条件で可能 | 原則不可 |
日本語要件 | JLPT N5レベル以上が必要 | なし |
管理体制 | 厳格化された監理支援機関 | 監理団体 |
制度の変更により、外国人材の権利が強化され、より実態に即した制度となります。特に、転籍が可能になることで、労働環境の改善や賃金水準の向上が期待できます。
一方で、企業側は人材流出のリスクに備える必要が出てきます。
施行時期と移行スケジュール
次に、具体的な施行時期と移行スケジュールについて解説します。育成就労制度は2024年6月に可決・成立しました。法律が施行される時期は2026年~2027年を予定しており、その後3年間の移行期間が設けられることが決定しています。
移行は、次のスケジュールで進められます。
- 2026年~2027年:育成就労制度の施行開始
- 2027年〜2030年:技能実習制度と育成就労制度の併用期間
- 2030年:技能実習制度の完全廃止
3年間の移行期間中、企業は状況に応じて両制度のいずれかを選択可能です。しかし、育成就労制度への移行に向けて、準備を計画的に進める必要があります。企業は早めの対策を講じることで、スムーズな制度移行が可能です。
企業が行うべき準備
- 社内規定の見直しと整備
- 日本語教育支援体制の構築
- 採用費用の予算化と確保
育成就労制度のメリット
育成就労制度には、企業と外国人材の双方にとって大きなメリットがあります。特に、日本語能力の高い人材を採用できることや、長期的な人材確保が可能になることは企業にとって魅力的です。また、外国人材にとっても、転籍が可能になることで、より良い労働環境を選択できるようになります。
企業側のメリット
育成就労制度では、企業側に3つの大きなメリットがあります。外国人材の採用を検討している企業にとって、育成就労制度は大きな可能性を秘めた選択肢だといえるでしょう。
- 日本語能力の高い人材を確保できる
- 長期的な人材確保が可能になる
- 幅広い業務に従事できる
日本語能力の高い人材確保できる
- 職場でのコミュニケーションがスムーズに行える
- 業務指示や安全確認が確実に行える
- 就労開始時点でN5レベル以上が必須になるため、最初からレベルの高い人材を確保できる
長期的な人材確保が可能になる
- 最長3年間の在留期間があり、特定技能への移行が可能になる
- 特定技能2号への移行で在留期間の上限がなくなる(更新手続きは必要)
- 特定技能2号は家族帯同が可能になるため、日本への残留が期待できる
幅広い業務に従事できる
- 技能実習のような作業制限が緩和される
- 日本人従業員と同様の業務が可能になる
- より柔軟な人員配置を実現できる
外国人材側のメリット
続いて、制度を利用する外国人材側のメリットを解説します。育成就労制度への移行に伴って、外国人材の権利が大幅に強化されます。主なメリットは次の4点です。
- 経済的負担の軽減
- 職場選択の自由度向上
- 労働環境の改善
- キャリアパスの明確化
経済的な不安や不当な扱いへの懸念が軽減され、自身のキャリアプランに沿って安心して働ける環境が整います。結果として、より多くの優秀な外国人材が日本での就労を選択する可能性が高いと考えられます。
経済的負担の軽減
- 渡航費用が企業負担になる
- 送り出し機関への手数料も企業負担になる
- 借金を抱えるリスクが減り、安心して来日できる
- 早期に生活基盤を安定させられる
職場選択の自由度向上
- 一定条件下で転籍が可能になる(より良い労働条件を選択できる)
- 不当な扱いから逃れることができる
労働環境の改善
- 適切な労働時間が確保される
- 日本人と同等の賃金水準になる
- 労働者としての権利保護される
キャリアパスの明確化
- 特定技能2号へステップアップできる
- 永住を視野に入れた将来設計が可能になる
育成就労制度における4つの深刻な問題点
育成就労制度には、企業と外国人材の双方にメリットがある一方で、深刻な課題もあります。特に企業側の負担増加や人材流出のリスク、職種の制限など、事業運営に大きな影響を与える可能性がある問題点には注意が必要です。ここでは、企業にとって最も懸念される「費用負担の増加」について解説します。
- 1人あたり年間50~100万円の費用増加の可能性がある
- 受入可能職種が90職種から16分野に減少する
- 転籍条件の緩和で人材流出リスクが増大する
- 外国人の日本語教育支援が企業の新たな負担になる
問題点①:1人あたり年間50~100万円の費用増加の可能性がある
これまで外国人材が負担していた費用の多くが企業負担となり、1人あたりの採用コストが大幅に増加することも育成就労制度の問題です。
新たな費用負担の内訳
- 渡航関連費用:航空券代、入国後の交通費・宿泊費など
- 送り出し機関への費用:手数料、書類作成費、研修費用など
- 教育支援費用 :日本語教育費、教材費、試験対策費など
具体的な費用は、外国人材の居住国や企業の取り組み内容によって異なりますが、政府資料を参考にすると、1人あたり約50万円以上の初期費用が発生する可能性があります。また、日本語教育や進捗管理体制の構築により、年間で100万円以上の費用増加が見込まれる場合もあります。
企業の費用負担は大きく、特に中小企業にとっては大きな経営課題となる可能性があり、慎重な資金計画が必要です。
問題点②:受入可能職種が90職種から16分野に減少する
育成就労制度では、特定技能制度と同様に、受け入れ可能な職種が16分野に限定されます。この16分野は、介護や建設、自動車整備、農業など、特定技能で定められた業界が中心となります。
受入可能となる16分野
- サービス業関連:介護、ビルクリーニング、宿泊、外食
- 製造業関連:工業製品製造業、造船・舶用工業、飲食料品製造
- 運輸・建設関連:建設、自動車整備、航空、自動車運送業、鉄道
- 一次産業関連:農業、漁業、林業、木材産業
これまで技能実習制度で認められていた縫製業や印刷業、パン・菓子製造など、多くの職種が対象外となる可能性が高いです。特に地方の中小企業にとって深刻な影響が予想されます。
その結果、職種制限によって人材確保の道が閉ざされる業界では、自動化の推進や国内人材の採用強化など、代替策の検討が急務となっています。
問題点③:転籍条件の緩和で人材流出リスクが増大する
一定の条件を満たせば転籍が可能となるため、企業にとって人材流出の大きなリスクとなるのも問題のひとつです。
転籍が認められる条件
条件 | 内容 |
---|---|
就労実績 | ・同一企業で1年以上の就労実績があること |
技能水準 | ・技能検定試験基礎級に合格していること ・必要な実務経験を有すること |
日本語能力 | ・日本語能力試験N5以上に合格していること |
転籍先要件 | ・同一の業務区分への転籍であること ・受入企業としての基準を満たすこと |
転籍が認められる条件は、一見ハードルが高いようにも見えますが、意欲的な外国人材であれば1〜2年で十分クリアできる水準です。
また、転籍が認められた場合、次のような企業にとっては深刻なリスクになります。
- 地方の中小企業
- 給与水準が相対的に低い企業
- 福利厚生が十分でない企業
- キャリアアップの機会が限られる企業
転籍による人材流出を防ぐためには、企業努力は欠かせません。たとえば、給与・待遇を見直したり、働きやすい職場環境を整備したり、住宅支援、家族帯同支援などの福利厚生を充実したりすることが必要になるでしょう。
問題点④:外国人の日本語教育支援が企業の新たな負担になる
育成就労制度では、外国人材の日本語教育支援が企業の新たな義務となり、次のような負担が発生する可能性があります。
日本語教育支援による負担
支援区分 | 内容 |
---|---|
学習環境の整備 | ・日本語講師の確保 ・教室やオンライン環境の準備 ・教材や学習ツールの提供 |
学習時間の確保 | ・週2〜3回の授業時間設定(目安) ・業務時間内での学習機会の提供 |
進捗管理と評価 | ・定期的な習熟度確認のテストの実施 ・個別面談による状況確認 ・試験結果のフィードバックの実施 |
運営体制の構築 | ・専任担当者の配置 ・外部機関との連携 ・サポート体制の整備 |
支援を適切に実施するには、専任担当者の配置や外部機関への委託など、新たな体制づくりが必要です。中小企業にとっては、人的リソースの確保も大きな課題となるでしょう。
育成就労制度の導入により、企業側には費用負担の増加、受入可能職種の制限、人材流出リスク、日本語教育支援の義務化という4つの大きな課題が生じます。特に中小企業にとっては、経営に直結する深刻な問題です。
育成就労制度の問題点への対応策
育成就労制度における4つの問題点は、適切な対策を講じることで十分に対応可能です。特に人材の定着率向上と費用対効果の改善に焦点を当てた戦略的なアプローチが重要となります。
外国人材にとって魅力的な職場づくりは、結果として企業の競争力強化にもつながるでしょう。まずは、最も重要な課題である「人材流出リスク」への対応策から見ていきます。
転籍リスクを抑える労働環境を整備する
人材の流出を防ぐためには、外国人材が「この会社で働き続けたい」と思える労働環境の整備が不可欠です。なぜなら、転籍条件を満たした優秀な人材ほど、より良い条件を求めて移動する傾向が強いためです。
人材流出を防ぐための具体的な施策は、以下のとおりです。
施策 | 内容 |
---|---|
給与・待遇面の改善 | ・業界平均以上の給与水準の確保 ・昇給制度の明確化 ・業績連動型賞与の導入 |
生活支援の充実 | ・住宅支援(社宅、家賃補助) ・家族帯同支援 ・母国への一時帰国制度の導入 |
キャリア形成支援 | ・スキルアップ研修の定期的な実施 ・資格取得支援制度の導入 ・昇進・昇格基準の明確化 |
職場環境の改善 | ・多言語による情報の提供 ・相談窓口の設置 ・日本人社員との交流の促進 |
初期投資や運営コストは必要となりますが、優秀な人材の定着による生産性向上や採用コストの削減を通じて、長期的には企業の成長と発展に大きく貢献することが期待できます。
採用コスト増大に対応する
育成就労制度で増加する採用コストは、効率的な教育支援体制の構築により適切にコントロールできます。なぜなら、単純な費用削減ではなく、効果的な投資と運用によって最適化されるからです。採用コスト増大に対応する具体的な施策は次のとおりです。
施策 | 内容 |
---|---|
教育方法の効率化 | ・オンライン学習システムの導入 ・e-ラーニング教材の活用 ・グループ学習の実施 |
社内リソースの活用 | ・先輩社員による指導 ・教育担当者の育成投資 ・教育ノウハウの蓄積 |
外部機関との連携 | ・地域の日本語学校との提携 ・複数企業での共同研修 ・助成金制度の活用 |
従来型の対面による日本語学習の場合、コストや移動に伴う時間のロスが顕著でしたが、オンライン学習などを取り入れることでコストの抑制は可能です。また、外国人材の規模に応じて、外部機関や地域と連携することで教育コストの削減は可能だと考えられます。
特に中小企業では、段階的な導入や社内外のリソースを積極的に活用することで、コストを適正な範囲にコントロールすることもできます。
日本語教育支援を利用する
日本語教育支援の費用負担は、適切な計画と外部リソースの活用により大幅な軽減が可能です。国や自治体による支援制度を使いながら、戦略的に組み合わせることで効率的な運営が実現できます。
国や自治体が提供している日本語教育支援
- 中小企業の外国人材受入支援事業(東京都)
例:ビジネス日本語eラーニング研修(年2回、各回100名程度) - 地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業(文化庁)
例:日本語学習支援者の育成(日本語ボランティア入門講座など) - 外国人材受入企業支援事業(北海道苫小牧市)
例:外国人労働者の日本語教育などに係る費用の一部(最大20万円)を補助
今回紹介した日本語教育支援は、日本全国の自治体で行われていますので、インターネットで検索してみてください。
ただし、2024年11月時点では育成就労制度単体での国や自治体からの日本語教育支援は発表されていません、公共機関からの情報は、随時キャッチアップするようにしましょう。
育成就労制度の問題点への対応策を組み合わせることで、質の高い日本語教育支援を持続可能な形で実施できます。しかし、すべてを自社で完結させるのは容易ではありません。
効果的な日本語教育支援の実現には、実績豊富な専門機関のサポートを活用することが賢明な選択だといえるでしょう。その点で、多くの企業から高い評価を得ている明光グローバルの日本語教育支援は、育成就労制度における企業の強力なパートナーとなります。
日本語教育支援には明光グローバルの試験対策サービスがおすすめ
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まとめ
2027年から施行される育成就労制度は、外国人材の権利保護と人材育成を重視した新しい制度です。企業側には日本語能力の高い人材確保や長期雇用が可能になるメリットがある一方、費用負担の増加や人材流出リスクなどの課題もあります。
多くの問題を解決するためには、労働環境の整備や効率的な教育支援体制の構築など、適切な対策を講じることで十分に対応可能です。日本語教育支援においてお悩みの方は明光グローバルまで、ぜひお気軽にお問合せください。