2023年8月31日に、外食業でも特定技能2号が解禁されました。これにより、これまで特定技能1号として働いていた外国人が、さらに長く日本で働ける可能性が広がります。
飲食店運営者にとっては、従業員が特定技能2号試験に合格し在留資格を取得できれば、長期雇用が可能になるだけでなく、事務手続きの簡略化や経費削減など、さまざまなメリットを享受できます。
しかし、2024年9月現在、制度の改正からまだ日が浅く、これまでに試験が実施されたのは2回のみで、合格者数や試験に関する情報はまだ限られています。今回は、外食業の特定技能2号試験の概要と最新情報について詳しく解説していきます。
参照元:特定技能2号の対象分野の追加について(法務省)
外食業で特定技能2号になることのメリット
まずは、外食業で特定技能2号を取得することのメリットについて紹介します。
- 在留資格の更新が無制限となる
- 家族帯同が可能
- 店舗・運営管理をするマネージャー職の候補者になる
- 支援計画の作成・実施がいらない
- 試験勉強が実務に活きる
在留資格の更新が無制限となる
特定技能1号には最長5年の就労制限がありますが、特定技能2号は更新が無制限なので、事業者側としては長く働いてもらえる可能性があります。また、外国人側は、在留期間制限のために帰国しなければならないといったことがなくなります。
家族帯同が可能
特定技能2号の場合、未婚者の場合は日本で家庭を作ることができ、既婚者の場合は母国から配偶者と子を呼び寄せることができるため、ライフプランの選択肢が広がります。
技能実習や特定技能1号の場合、家族を母国に残して日本で働く必要があるため、仕事に集中できないなどの影響をきたすことがありますが、家族を帯同できればその心配を軽減できます。また、子供が日本で教育を受けられることにメリットを感じる人も多いでしょう。
店舗・運営管理をするマネージャー職の候補者になる
外食業界全体が人手不足ですが、特に顕著なのが店長などの管理職です。令和4年度の外食業の有効求人倍率は、「飲食店主・店長」が 7.11 倍、「飲食物給仕係」が 5.06 倍、「調理人」が 3.12 倍、「外食業全体」が 3.57 倍となっています。
また、外食業の2号特定技能外国人は、将来的に店長やエリアマネージャーレベルの役職に就くことを想定していることから、日本語能力N3も必須条件として課されています。これは、他業種にはない条件です。
参照元:
支援計画の作成・実施がいらない
特定技能2号に移行すると、特定技能1号では必須だった公的手続き等への同行や日本語学習の機会の提供などの支援の対象外になるため、雇用側としては事務作業を軽減できるといったメリットがあります。
また、支援を登録支援機関に委託していた場合は、その必要がなくなるため、経費削減につながります。
参照元:特定技能外国人受け入れる際のポイント(出入国管理庁)
試験勉強が実務に活きる
外食業の特定技能2号試験には「店舗運営」の項目があり、原価計算や人件費管理、売上計画の立て方などについて学びます。試験勉強を通じて、これまで現場で教わってきたことの背景や根拠を初めて理解する人も多いでしょう。
たとえば、原価計算ではロス削減の重要性、人件費管理では忙しい中でも少人数で効率的に店舗を運営する理由、売上計画の立て方では客単価を上げるための提案方法や、リピート率を高めるためにサービスや品質を向上させるポイントを学ぶことができます。
こうした内容を試験勉強中に理解することで、サービス、管理、調理の質が向上することが期待できます。
参照元:外食業分野における 特定技能外国人制度について(農林水産省)
特定技能2号試験「外食業」の概要
このように、外食業で特定技能2号になることには、飲食店運営者にとってメリットばかりです。続いては、試験の概要について解説します。外食業の特定技能2号試験は、OTAFF(一般社団法人 外国人食品産業技能評価機構)によって実施されています。
受験資格
受験資格は、次のとおりです。
- 試験当日に在留資格を有していること
- 試験日に満17歳以上であること
- 法務大臣が指定する外国機関発行の有効なパスポートを所持していること
- 外食業で、2年以上の指導実務経験がある、または試験日から6ヶ月以内に2年以上の指導実務経験を満たす見込みがあること
※指導実務経験:複数のアルバイト従業員や特定技能外国人等を指導・監督しながら接客を含む作業に従事し、店舗管理を補助する業務
参照元:
試験科目
試験科目は、学科試験と実技試験の2科目で、いずれの試験もペーパーテストによるマークシート方式で、試験項目と内容は同じです。
学科試験では知識が問われるのに対し、実技試験では判断や計画立案などケーススタディのように場面を想像して、どのような対応を取るかが問われる点が異なります。
- 試験時間:70分
- 合格基準:250点満点の65%以上
学科試験
学科試験は、下記4項目の知識を測定します。
項目 | 主な内容 | 問題数 | 配点 |
---|---|---|---|
衛生管理 | ・一般衛生管理に関する知識 ・HACCPに関する知識 ・食中毒に関する知識 ・食品衛生法に関する知識など | 10問 | 40点 |
飲食物調理 | ・調理に関する知識 ・食材に関する知識 ・調理機器に関する知識 ・食品の流通に関する知識など | 5問 | 10点 |
接客全般 | ・接客サービスに関する知識 ・食の多様化に関する知識 ・クレーム対応に関する知識 ・公衆衛生に関する知識など | 10問 | 30点 |
店舗運営 | ・計数管理に関する知識 ・雇用管理に関する知識 ・届出関係に関する知識など | 10問 | 40点 |
合計35問 | 合計120点 |
実技試験
実技試験の項目と内容は、筆記試験と同じです。判断試験・計画立案試験により、業務上必要となる技能水準を測定します。
項目 | 主な内容 | 問題数 | 配点 |
---|---|---|---|
衛生管理 | 学科試験と同じ | 判断試験:3問 計画立案:2問 | 40点 |
飲食物調理 | 学科試験と同じ | 判断試験:3問 計画立案:2問 | 20点 |
接客全般 | 学科試験と同じ | 判断試験:3問 計画立案:2問 | 30点 |
店舗運営 | 学科試験と同じ | 判断試験:3問 計画立案:2問 | 40点 |
合計35問 | 合計130点 |
受験料
受験料は、税込14,000円です。OTAFFの都合で試験ができない時や自然災害などにより、OTAFFが試験を実施できないと決めたときを除き、受験料が変換されません。
試験会場
試験会場は、特定技能外国人が都市部に集中しすぎないようにという意図から、受験者数に関わらず、地方でも試験が開催されます。第1回試験は全国で5会場のみでしたが、第2回試験は12会場に増えました。
特定技能2号試験「外食業」の合格率や難易度
続いては、特定技能2号試験「外食業」の合格率や難易度について解説します。
合格率は、40%弱
第1回試験の合格率は、38.7% でした。
会場 | 受験者数(人) | 合格者数(人) | 合格率(%) |
---|---|---|---|
宮城 | 15 | 4 | 26.7% |
東京 | 172 | 69 | 40.1% |
愛知 | 56 | 16 | 28.6% |
大阪 | 26 | 16 | 61.5% |
福岡 | 23 | 8 | 34.8% |
合計 | 292 | 113 | 38.7% |
参照元:2023年度 外食業特定技能 2号技能測定試験国内試験 (OTAFF)
採点基準や試験問題の内容、正解および配点に関する問い合わせを受け付けていないため、合格基準点や傾斜配点の有無が不明です。そのため、効率的な対策を立てるのが難しく、試験範囲全体をバランスよく学習する必要があります。
難易度は、現在の難易度が維持される可能性が高い
農林水産省の外食業特定技能測定試験実施要領によると、「外食業で2年以上の指導実務経験がある人が、専用学習テキストなどを使わずに受験した場合、3割程度が合格する水準とする。」とあることから、第1回試験と同等の難易度が今後も維持される可能性が高いでしょう。
特定技能2号試験「外食業」を受ける際の注意点
続いては、特定技能2号試験「外食業」を受ける際の注意点について解説します。
- 企業からしか試験の申し込みができない
- 試験合格だけでは2号に移行できない
- 試験問題の漢字にルビがない
企業からしか試験の申し込みができない
企業から試験を申し込むことを「企業申込」と呼びます。
通常、会場定員を超える申込があった場合は、受験できるかどうかは抽選になりますが、試験合格を前提に雇用が内定している場合や、特定技能への在留資格変更を前提に継続雇用が予定されている外国人材に対して、無抽選で受験の席を確保するための手続きです。
企業申込をできる企業は、「外食業を営んでいる企業であって、特定技能資格外国人材を直接雇用する企業」と定められています。
また、企業申込をする際は、OTAFFに企業用マイページ登録をする必要がありますが、OTAFFの賛助会員でない場合や、OTAFF会員からの推薦状がない場合は、登録審査に一定の日数を要するため注意が必要です。
試験合格だけでは2号に移行できない
特定技能2号への移行条件として、日本語能力試験N3の合格を課しているのは、漁業と外食業のみです。これは、外食業では食物アレルギーや原料原産地表示、お酒に関する情報を正確に伝える必要があるほか、消費者の多様な要望を正確に聞き取り対応する能力も求められるためです。
試験問題の漢字にルビがない
特定技能1号試験では、試験問題の漢字にルビが付されていますが、2号試験ではルビがありません。実務上、聞いて音で理解できていることでも、漢字を読んで理解できないと点数に結びつかないことがあります。
参照元:食品産業分野(飲食料品製造業分野及び外食業分野)の特定技能2号に関するQ&A(農林水産省)
特定技能2号試験「外食業」の課題
特定技能2号試験「外食業」に合格するための主な課題には、次の3点があります。
- 勉強することが多い
- 担当業務や実務以外の勉強が必要
- 対策が確立されていない
勉強することが多い
外食業の特定技能2号試験では、1号試験にはなかった「店舗運営」の項目が追加されています。この中の「係数管理」や「雇用管理」の問題は、数学の知識がないと得点が難しいです。
さらに、日本語能力試験N3を取得していない場合は、その勉強も必要なため、他の分野の特定技能2号試験を受ける人に比べて勉強量が多くなる場合があります。
担当業務や実務以外の勉強が必要
試験項目には、自分の担当業務以外の内容も含まれます。
たとえば、調理担当の外国人であっても、接客・調理・衛生管理・店舗運営のすべてが試験範囲となるため、担当業務以外の勉強が必要です。さらに、調理の配点が10点である一方、接客の配点が30点といったように、配点に差があることも課題となります。
また、注文を取ったり、食材の発注をしたりなどの業務は自動化をしている企業も少なくありません。実務で経験していないことでも、試験勉強となると必要となるケースもあります。
対策が確立されていない
試験対策は、専用テキストしかなく、過去問は公開されていません。そのため、試験で問われるポイントを集中的に暗記したり、出題予想に絞った勉強をしたりするなどの効率的な対策が困難です。
なお、専用テキストは、日本フードサービス協会が作成しており(外食業技能測定試験学習用テキスト)、会員登録など必要なく誰でもダウンロードできます。
特定技能2号試験「外食業」に合格するために
特定技能2号試験「外食業」に合格するためのポイントは、主に次の3つです。
- 業務の中に試験対策を組み込む
- 計画的に試験の準備をする
- ルビに頼らずに知識を定着させる
- 学習環境をサポートする
業務の中に試験対策を組み込む
外国人教育担当者が試験教材のテキストを読み込み、日常業務と試験内容を照らし合わせた指導を行うと良いでしょう。試験範囲が広いため、業務内容と試験内容を結びつけると効率的です。
また、担当業務以外にも触れる機会を作ることも効果的です。調理担当でも接客の問題を、接客担当でも調理の問題を解く必要があります。店舗内で勉強会や業務ローテーションを実施し、さまざまな業務に触れる機会を増やすことが効果的です。
計画的に試験の準備をする
2回目で確実に合格できるための計画を立てます。1回目の試験では、どれくらいの勉強時間で、どの程度問題に対応できたかを確認し、弱点や不足している部分を補う勉強を行い、2回目に備えます。受験スケジュールを立て、受験資格に必要な2年以上の実務経験も考慮しながら準備を進めましょう。
また、特定技能2号試験の対策を始める前に、日本語能力試験N3を取得しておくことが大切です。外食業の特定技能2号に移行するには、N3の合格が必要です。働きながら同時に2つの試験対策を行い、両方に合格するのは難しいため、試験勉強の時期が重ならないように計画するようにしましょう。
ルビに頼らずに知識を定着させる
本試験の問題文の漢字にはルビがない一方で、フード協会のテキストはルビが付いています。そのため、ルビに頼ってテキスト読みをするだけでは、本試験対策としては厳しいでしょう。
テキストは、フード協会のホームページから手軽に印刷できるため、2部印刷しておくと効率的に勉強できます。
一部は、インプット用テキストとして、ルビをそのままにし、難しい専門用語を覚えやすいように母国語での書き込みをします。苦手な箇所に色塗りするのも良いでしょう。
もう一部は、アウトプット用テキストとしてルビを塗り潰して使用します。アウトプット用テキストを読んだ時に、漢字が読めるか、インプット用テキストに自分で書き込んだことが思い出せるかを確認します。
学習環境をサポートする
外食業の特定技能2号は、N3の勉強や担当業務以外の勉強も多いです。特に業務上ほとんど触れることがない、店舗運営の配点が高い点に注意が必要です。そのため、他の分野の特定技能2号に比べて必然的に勉強量が多くなります。
慣れない生活環境で働きながら勉強することは容易ではありません。学習の進捗管理や学習方法、日本で生活する上での時間の作り方をアドバイスするなど、雇用企業側のサポートも必要です。
特定技能の日本語学習には外国人向けオンライン日本語学習サービスがおすすめ
最後に、外国人従業員が日本語能力試験や特定技能試験の勉強を効率的に進められるだけでなく、雇用企業側も学習状況を管理できるオンライン学習ツールを紹介します。
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まとめ
特定技能外国人が2号に移行できれば、長期で働くことができたり、マネージャー候補になれるなど、雇用企業側にはメリットが多くあります。また、外国人従業員側も在留資格の更新が無制限となり、家族帯同も可能となるなど、大きなメリットがあります。
しかし、外食業の特定技能2号試験は、試験内容は店舗運営や接客、調理、衛生管理など広範囲に及びます。担当業務以外も試験範囲になる点や店舗運営の配点が高いなどの課題があります。
また、特定技能2号の在留資格取得のためには、日本語能力試験N3の合格も必要であるため、早い段階でN3に合格し、試験勉強の時期が重ならないようにするために受験スケジュールを立てることも必要です。
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