近年、人手不足の業界・業種を中心に、特定技能人材や技能実習生などの外国人材を積極的に採用する企業が増えています。特定技能制度や技能実習制度を確認していくと、外国人材の日本語能力を定義する際に「A1」や「A2」、「B1」といった指標を目にすることも多いのではないでしょうか?これらは「CEFR(セファール)レベル」と呼ばれる指標で、日本語教育参照枠で活用されています。
今回は、CEFRや日本語教育参照枠の概要や特徴、企業が日本語教育参照枠を活用するメリットや注意点について解説します。外国人材の採用に慣れていない方や、CEFRについて詳しい情報が知りたい方はぜひ最後までお読みください。
CEFRとは
CEFRとは、ヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages)の略称であり、言語能力を測定し、資格を承認する根拠として活用されている枠組みのことです。2001年、欧州評議会によって発表されました。
CEFRでは、外国語の熟達度をA1~C2までの6段階のレベルに分けています。また、これらのレベルで外国語学習者ができることを言語能力記述文(Can do)で細やかに示しています。
CEFRを語学試験や教育機関に紐づける「基準設定」を行うことで、学習者の外国語の熟達度を公平に評価することができます。2025年現在では40以上の言語に翻訳されており、さまざまな国や地域で活用されています。
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CEFRの意義
CEFRの意義は、異なる評価基準を持つ語学試験の受験者や教育機関に通う学習者を同一の指標で評価できる点です。
語学試験や教育機関によって、語学力を評価する基準はさまざまです。評価基準が統一されていないと、選考や評価、言語学習、教授などの場面で、学習者の外国語の熟達度を適切に比較することが難しくなります。
CEFRがさまざまな語学試験や教育機関に紐づくことで、異なる評価基準を持つ語学試験同士をスムーズに比較できるようになります。このような背景から、CEFRは国境や言語の枠を越えて教育・就労の流動性を促進する指標として国際的に評価されているのです。
日本語教育参照枠とは
日本語教育参照枠とは、日本語学習者が自身の日本語の熟達度を客観的に把握したり、学習目標を立てて自律的に学習を進めたりするための指標のことです。文化庁の文化審議会国語分科会を中心に協議が進められ、2021年に公表されました。
日本語教育参照枠はCEFRを参考に作られており、仕組みや特徴の面で多くの共通点があります。一方、日本語教育の特性を反映してカスタマイズされており、日本独自の枠組みとなっています。
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日本語教育参照枠とCEFRの関係性
日本語教育参照枠は、CEFRの考え方を参考にしながら日本語教育の特性を踏まえて独自に策定された枠組みです。
日本語教育参照枠でも、CEFRと同様に、A1~C2までの6段階のレベルで日本語の熟達度を表しています。この指標は一般的に「CEFRレベル」と呼ばれており、政府や関係省庁などを中心に活用されています。
たとえば、特定技能制度や技能実習制度、2027年より技能実習制度にかわって施行される予定の育成就労制度では、CEFRレベルを用いて日本語能力を定義しています。また、日本語教育参照枠においても言語能力記述文が整備されており、学習者が日本語を使ってどんなことができるのかが具体的に表現されています。
一方、日本語教育の特性に合わせるために、CEFRとは異なる点もあります。たとえば、日本語の特徴である漢字や敬語などの表現については、文化庁独自の基準で整理されています。また、学習者の言語熟達度を構成する能力の中には、CEFRには定義されているものの、日本語教育参照枠では定義されていない能力があります。
日本語教育参照枠が作成された背景
日本語教育参照枠が作成された背景の一つに、日本の生産年齢人口の減少に伴う外国人材の増加が挙げられます。
近年、日本では少子高齢化の影響で、人手不足が叫ばれています。日本人の労働力を確保しにくい業界・業種を中心に、特定技能人材などの外国人材を積極的に雇用する企業が増加傾向にあります。
一方、日本には国内外で共通して参照できるような、日本語の熟達度を判定するための統一的な評価指標や評価ツールが十分に整備されていませんでした。そのため、転勤や転職によって日本語を学ぶ教育機関が変わったり、異なる日本語試験の結果を求められたりした場合などに困難が生じていました。
そこで、日本語教育に携わる企業や学校が気軽に参照できる日本語学習・教授・評価のための枠組みを作るべきだとの考え方から、日本語教育参照枠が作成されました。日本語試験や日本語教育機関の評価指標に日本語教育参照枠のCEFRレベルが紐づくことで、外国人材が継続的に適切な日本語教育を受けられるようになります。今後、日本語教育参照枠はより広く活用されていくと考えられます。
日本語教育参照枠・CEFRの特徴
日本語教育参照枠・CEFRにはどのような特徴があるのでしょうか?ここでは、日本語教育参照枠・CEFRの特徴について解説します。
- CEFRは国際的に認知度が高い枠組みである
- 日本語の熟練度を6段階のCEFRレベル・5つの言語活動・4つの能力で示す
- 熟練度に応じた言語能力記述文(Can do)がある
CEFRは国際的に認知度が高い枠組みである
CEFRは、ヨーロッパを中心に世界的に認知されている枠組みです。日本語教育参照枠と同様に、他の言語の試験でも、A1~C2までのCEFRレベルを活用して熟達度を示しています。
日本語教育参照枠が導入されるまでは、日本語の運用能力を同一の基準で表示できる指標がありませんでした。そのため、個々の日本語試験のレベルや難易度を、海外の人事担当者に伝える際に課題がありました。
日本版のCEFRともいえる日本語教育参照枠が導入されることで、海外の人事担当者ともスムーズに選考・評価・教育などのやり取りができるようになります。
日本語の熟練度を6段階のCEFRレベル・5つの言語活動・4つの能力で示す
日本語教育参照枠・CEFRでは、全体的な尺度である「CEFRレベル」に加え、「言語活動別の熟達度」や「言語能力熟達度を構成する能力」などの枠組みを活用することができます。
日本語能力を向上させるには、学習目標を明確化することが重要です。言語活動別の熟達度や言語能力熟達度を構成する能力などの指標を活用することで、個々の外国人材に合わせたカリキュラムや目標設定がしやすくなります。詳細は下表のとおりです。
枠組み | 概要 | 熟達度の指標 |
---|---|---|
CEFRレベル | 語学力の熟達度を6段階のレベルで示すもの。A1が最も難易度が低く、C2が最も高い。抽象的であり、試験結果などに用いられる。 | A1~C2まで |
言語活動別の熟達度 | 6段階のCEFRレベルごとに、5つの言語活動の熟達度を示すもの。評価や教育の場面で目標の共有やフィードバックなどに用いられる。 | 聞くこと・読むこと・話すこと(やり取り)・話すこと(発表)・書くこと |
言語能力熟達度を構成する能力 | 熟達度を構成する言語能力を4種類に分け、整理したもの。Can doの根拠となっている。評価や教育の場面で目標設定などに用いられる。 | 一般的能力・コミュニケーション言語能力・コミュニケーション言語活動・コミュニケーション言語方略 |
熟練度に応じた言語能力記述文(Can do)がある
日本語教育参照枠・CEFRの最大の特徴は言語能力記述文がある点です。
言語能力記述文とは、学習者ができることを「~できる」という形で示すものです。日本語教育参照枠では、言語能力熟達度を構成する能力をベースに4種類の言語能力記述文が設けられています。
Can do | 概要 |
---|---|
活動Can do | 日本語を用いた具体的な言語活動(聞くこと・読むこと・話すこと(やりとり・話すこと(発表)・書くこと)に関する言語能力記述文 |
方略Can do | 日本語を使用する際のストラテジーに関する言語能力記述文 |
テクストCan do | 日本語の話し言葉や書き言葉で、一まとまりの表現を扱うことに関する言語能力記述文 |
能力Can do | 言語能力や社会言語能力、言語運用能力に関する言語能力記述文 |
言語能力記述文は全体で493項目あり、日本語能力を詳細に定義しています。
企業が日本語教育参照枠・CEFRを活用するメリット
日本語教育参照枠・CEFRを活用すると、企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか?ここでは、企業が日本語教育参照枠・CEFRを活用するメリットを解説します。
- 外国人材を採用する際に統一的な指標で公平に面接・選考ができる
- 言語能力記述文(Can do)を活用して外国人材の日本語能力を正確に把握できる
外国人材を採用する際に統一的な指標で公平に面接・選考ができる
企業が日本語教育参照枠を活用することで、外国人材を採用する際に公平に面接・選考ができるようになります。
日本にはさまざまな外国人材が在留しており、受験する日本語試験も多様化しています。日本語教育参照枠の導入以前は、異なる試験結果を比較・参照する際の基準が一般化していませんでした。担当者の経験や勘に依存した、感覚的な採用選考も多かったものと考えられます。
日本語教育参照枠の導入に伴い、さまざまな日本語試験がCEFRレベルを参考表示として紐づけるようになりました。日本語教育参照枠のCEFRレベルを活用することで、企業は異なる試験の結果を統一的な指標で比較でき、より公平感のある採用選考を実現することができるようになります。
言語能力記述文(Can do)を活用して外国人材の日本語能力を正確に把握できる
企業が言語能力記述文を活用することで、外国人材の日本語能力の評価基準の設定や査定・評価がスムーズに行えるようになります。
言語能力記述文では、CEFRレベルに応じて493項目の日本語能力が文章化されています。たとえば、下の表のような内容が記載されています。なお、言語能力記述文の例としては、A1~C2までの6段階のうち、中級レベルであるB1を採用しています。
種類 | 能力 | 言語能力記述文の例 |
---|---|---|
活動Can do | 聞くこと | B1.1:短い物語も含めて、仕事、学校、余暇などの場面でふだん出合う、ごく身近な事柄について、共通語で明瞭に話されたものなら要点を理解できる。 |
方略Can do | 産出的言語活動の方略 | B1.1:伝えたいことの要点を伝達する仕方を考えることができる。その際、使える言語能力を総動員して、表現のための手段を思い出せる、あるいは見つかる範囲内にメッセージの内容を限定する。 |
テクストCan do | ノート取り | B1.1:もし話題が身近で、簡単な言葉で表現されており、はっきりとした発音で共通語による話し言葉で話されれば、簡単な講義を聴きながら、重要な点をリストにすることができる。 |
能力Can do | 語彙能力 | B1:本人の日常生活に関わる大部分の話題について、多少間接的な表現を使ってでも、自分の述べたいことを述べられるだけの語彙を持っている。 |
※日本語教育の参照枠 報告(文化庁)を参考に作成
これらのCan doを活用すれば、企業の求める日本語能力を定義したうえで、外国人材が「できること」と「できないこと」を明確に判断することが可能です。そのため、外国人材の日本語学習における目標設定や教育カリキュラム、評価やフィードバックを円滑に進めることができます。また、CEFRレベルに応じて、外国人材がもっている日本語能力の目安を把握する際にも効果的に活用できます。
企業が日本語教育参照枠・CEFRを活用する際の注意点
企業が日本語教育参照枠・CEFRを活用する際には、どのような点に注意が必要なのでしょうか?ここでは、企業が日本語教育参照枠・CEFRを活用する際の注意点について解説します。
参照元:
日本語試験によってCEFRに対応している内容が異なる
まず注意したいのが、日本語試験によってCEFRに対応している内容が異なるという点です。
そもそも、日本語教育参照枠・CEFRはさまざまな言語能力を参照できる枠組みであり、日本語試験ではありません。CEFRレベルを確認するには、既存の日本語試験のうち、日本語教育参照枠に対応しているものを受験する必要があります。
一方、日本語試験の試験科目や実施要領によって、CEFRで定義している言語能力の中でも確認できる項目・確認できない項目があります。
具体例として、2025年12月よりCEFRレベル参考表示を掲載する予定となっている日本語能力試験(以降、「JLPT」)について解説します。JLPTには「言語知識」「読解」「聴解」の試験があります。これらはCEFRの言語能力熟達度を構成する能力の中では「言語能力」「受容活動能力」に対応しています。そのため、JLPTを受験することで「言語能力」「受容活動能力」に関するCEFRレベルを確認することができます。ただし、JLPTには「話す」「書く」などの試験がないため、日本語教育参照枠で定義しているそのほかの能力を測ることはできません。具体的には下図のとおりです。

画像引用元:CEFR-CV 言語能力総観図(日本語能力試験 JLPT)
上記の例のように、日本語試験の種類によってCEFRに対応している内容に差異が発生します。今後、企業が採用や評価などの場面において、異なる日本語試験結果を比較・参照する際には、それぞれの日本語試験が日本語教育参照枠とどのように対応しているかを確認する必要があります。
言語能力記述文を活用した日本語教育の目標設計は難しい
言語能力記述文を活用した日本語教育の目標設定が難しい点にも注意が必要です。
日本語教育参照枠では、言語能力記述文を外国人材の日本語教育の目標設計に活用することが推奨されています。CEFRレベルや能力に応じて具体的な日本語能力を参照できるため、うまく使いこなせばとても便利なものです。
一方で、言語能力記述文は全体で493項目あり、どこからどのように教育に取り入れれば良いのかがわかりにくくなっています。特にはじめて外国人材を採用する企業では「何から手を付けたら良いのかわからない」とお困りの担当者も少なくありません。
明光グローバルなら、CEFRレベルや言語能力記述文を活用して外国人材に合った日本語学習の目標設計をサポートすることができます。また、豊富な学習コンテンツで効果的な能力開発が可能です。外国人材の日本語学習にお悩みの方は、明光グローバルまでお気軽にお問い合わせください。
外国人材の日本語能力を向上させるなら明光グローバルにおまかせ
日本語教育参照枠・CEFRを活用することで、企業は外国人材の持つ日本語能力を正確に把握したり、評価や教育の質を向上させたりすることができます。一方、日本語教育参照枠の言語能力記述文を日本語学習のカリキュラムに落とし込むには、日本語教育への深い理解力が求められます。
明光グローバルは外国人材に対する日本語教育のリーディングカンパニーとして、これまでさまざまな企業の教育研修設計のサポートをしてきました。最後に、外国人材に対する日本語教育にお悩みの経営者・人事担当者様に向けて、明光グローバルの概要と提供するサービスを紹介します。
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まとめ
さまざまな日本語試験にCEFRレベルが表示されることで、外国人同士の日本語能力の程度を比較しやすくなります。一方、外国人材の採用に慣れていない企業では「CEFRレベルの内容を正確に理解するのが難しい」「どうやって教育研修や評価体系に反映すればよいかわからない」といったお悩みをお持ちのことも多いです。
明光グローバルは外国人材の採用・教育・定着をワンストップで支援しているため、日本語教育参照枠の効率的な活用方法に関する豊富な知見やノウハウがあります。外国人材の日本語教育や評価設計にお悩みの際には、お気軽に明光グローバルまでお問い合わせください。