日本では、人口減少の影響でさまざまな業界が人手不足に陥っています。建設業界もその一つです。近年、こうした人材難を解消するために、外国人材を採用する企業が増えてきています。
では、建設業の要ともいえる施工管理にも、外国人材を採用することはできるのでしょうか?今回では、施工管理で外国人材を採用する場合に必要な在留資格や、採用する流れなどについて解説します。施工管理の人材獲得に苦戦している採用担当者や、建設業界における外国人材の活用に興味がある人事担当者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
施工管理で外国人材を採用することはできる?
結論からお伝えすると、施工管理で外国人材を採用することは可能です。
建設業界では、かねてより人手不足に対処するために、外国人労働者を積極的に受け入れてきました。施工管理についても、同様に外国人材を受け入れることができます。
ただし、外国人材の在留資格によっては、施工管理で働いてもらうことができないケースがあります。在留資格とは、外国人材が日本に滞在し、特定の活動を行うために必要な許可のことです。詳しくはこのあと解説する「外国人材が施工管理で働くために必要な在留資格」の章を参考にしてください。
外国人材が施工管理で働くために必要な在留資格
外国人材が施工管理で働くには、どのような在留資格が必要なのでしょうか?
施工管理の場合は、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ人材か、身分や地位に基づく在留資格である「永住者」や「定住者」などの「居住資格」を持つ人材のどちらかであれば、働くことが可能です。
建設分野では、特定技能人材や技能実習生がよく採用されています。ただし、これらの外国人材の場合には、認められた業務範囲内の現場作業しか任せることができません。施工管理としては働くことができないので注意しましょう。
技術・人文知識・国際業務は施工管理で働ける
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ外国人材は、施工管理で働くことが可能です。
この資格は、技術分野・人文知識分野・国際業務分野の3つを網羅しており、たとえばプログラマーや通訳、日本語教師などの職種で働く人が多く取得しています。施工管理としての就業も認められているため、条件を満たす外国人材は施工管理に従事できます。
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の場合、期間内に更新すれば、上限なく在留することが可能です。そのため、長期的な目線で外国人材を採用することができます。
- 更新期間:5年、3年、1年または3ヶ月
- 在留期間:制限なし
参照元:在留資格「技術・人文知識・国際業務」(出入国在留管理庁)
居住資格は施工管理で働ける
「居住資格」とは、身分や地位に基づく在留資格のことです。具体的には、次の4種類があります。
- 永住者
- 日本人の配偶者等
- 永住者の配偶者等
- 定住者
これらの居住資格を持っている場合は、業務範囲の制限がなく、どのような職種でも働くことができます。そのため、施工管理の業務を任せることも可能です。
- 永住者:法務大臣が永住を認める者のこと。基本的には、素行が善良であり、独立の生計を営むに足りる資産または技能を有し、永住することで日本の利益になるかどうかが審査される。
- 日本人の配偶者等:日本人の配偶者もしくは特別養子、日本人の子として出生した者のこと。日本人の方の夫や妻、実子、特別養子などが該当する。
- 永住者の配偶者等:永住者などの配偶者または永住者などの子として日本で生まれ、引き続き日本に在留している者のこと。永住者や特別永住者の配偶者、日本で出生し在留している子などが該当する。
- 定住者:法務大臣が特別な理由を考慮し、一定の在留期間を指定して居住を認める者のこと。第三国定住難民や日系三世、中国残留邦人などが該当する。
参照元:
特定技能や技能実習は施工管理では働けない
特定技能人材や技能実習生は、施工管理として働くことはできません。
建設分野で働く特定技能人材や技能実習生が働けるのは、造園工事や左官工事、電気工事など、在留資格の中で認められた作業のみです。詳しい内容は個々の在留資格認定証明書などに記載されているので確認してください。
外国人材に在留資格で認められていない仕事をさせると、企業側は不法就労助長罪で処罰されます。そのため、外国人材を採用する前に、本人が就業可能な業務範囲を確認しておくことは非常に重要です。
外国人材が技術・人文知識・国際業務の在留資格を獲得するための要件
外国人材が、本人の身分や地位にかかわらず施工管理の仕事に就くためには、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を得る必要があります。では、外国人材が「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を得るためには、どのような要件があるのでしょうか?
ここでは、外国人材が「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を得る要件について解説します。
- 海外の大学・専修学校で業務に関連する内容を専攻しているか、10年以上の実務経験
- 日本人と同等以上の報酬を受け取ること
- 外国人材の素行が良好であることや、入管法に定める届出義務を履行していること
参照元:
海外の大学・専修学校で業務に関連する内容を専攻しているか、10年以上の実務経験
外国人が「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を得るには、海外の大学・専修学校で業務に関連する内容を専攻しているか、10年以上の実務経験が必要です。具体的には、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 海外の大学や専修学校などで、業務に必要な技術や知識に関連する科目を専攻して卒業している
- 大学などで関連科目を専攻した期間を含み、技術・人文知識・国際業務に該当する業務もしくは関連する業務に10年間従事している
日本人と同等以上の報酬を受け取ること
外国人材が日本人と同等以上の報酬を受けることも、在留資格を得る要件の一つです。
日本では、外国人材に対しても、同一労働同一賃金のルールが適用されます。外国人材だからといって安い賃金で働かせることはできないため注意が必要です。
なお、この場合の「報酬」には、基本給のほか、勤勉手当や調整手当などが含まれます。通勤手当や扶養手当、住宅手当など、実費を弁償する性格を持つものは含まれません。
外国人材の素行が良好であることや、入管法に定める届出義務を履行していること
在留資格を得るためには、外国人材の素行が善良であることが前提として求められます。たとえば、外国人材が資格外活動許可の条件に違反して、1週あたり28時間以上のアルバイトに従事している場合なども、素行不良とみなされるので注意が必要です。
また、入管法に定める届出義務を滞りなく履行していることも重要です。具体的には、在留カードの記載事項に関する届出や、有効期間更新申請、所属機関等に関する届出などを期限までに提出していない場合、在留許可がおりない可能性があります。
施工管理で外国人材を採用する場合の流れ
施工管理職で外国人材を採用する場合、どのようなフローで採用を進めればよいのでしょうか?ここでは、施工管理で外国人材を採用する場合の流れについて解説します。
- 書類選考・在留資格の確認
- 面接選考
- 受け入れ体制の整備・在留資格に関する手続き
- 入社後対応
書類選考・在留資格の確認
まずは、日本人の場合と同様に、書類選考をしましょう。このとき、施工管理として働くことができる在留資格を持っているかを確認することも重要です。
海外から外国人を直接採用するケースなどでは、外国人材が在留資格を持っていない場合もあります。その場合は、在留資格を得る条件に該当するかを確認しておき、内定を出してから在留資格を獲得する手続きを行うこともできます。
ただし、在留資格を得る条件にあてはまっていたとしても、在留資格やビザがおりるかどうかは確実ではないので注意が必要です。
その他、学歴や職歴、日本語能力など、自社で求める条件に合うかを確認します。
面接選考
書類選考を突破した外国人材には、面接選考を行い、本人のスキルや日本語能力などを確認することが重要です。面接選考の際にも、改めて在留カードを目視で確認し、資格の有無をチェックしておくことが重要です。
また、採用後のトラブルを避けるため、施工管理の業務内容や給与、残業時間などの労働条件については、面接選考とあわせて本人に説明しておくようにしましょう。
受け入れ体制の整備・在留資格に関する手続き
外国人材に内定を出したら、受け入れ体制の整備や在留資格に関する手続きを行う必要があります。
受け入れ体制の整備としては、日本人を採用するときと変わらず、健康保険や厚生年金などの各種社会保険の手続きが必要です。また、前もって日本人社員に外国人材採用の意義を説明したり、異文化理解研修や異文化コミュニケーション研修を行ったりして、スムーズに外国人材を受け入れられるよう準備しておきましょう。
在留資格に関する手続きも求められます。たとえば、採用する外国人材が在留資格を持っていない場合には、「在留資格取得許可申請」などが必要です。また、日本国内での転職など、在留資格を変更する必要がある場合には、「在留資格変更許可申請」などが求められます。新たに外国人材を採用する際には、ハローワークに「外国人雇用状況の届出」を行うことも必要です。
こうした手続きの方法は、在留資格によって異なります。お悩みの際には、出入国在留管理庁のホームページや、外国人在留総合インフォメーションセンターなどをご活用ください。
入社後対応
外国人材が入社したら、外国人向け研修の実施やメンターの整備などが必要です。
外国人向け研修としては、職場で業務をスムーズに行えるよう、日本語教育に加え、日本の企業文化を理解する研修、日本人とのコミュニケーション研修などを行います。
また、外国人材が職場で孤独にならないよう、悩みを相談できるメンターなどを設定することも有効です。
施工管理で外国人材を採用するメリット
施工管理で外国人材を採用するメリットは何なのでしょうか?ここでは、施工管理で外国人材を採用するメリットについて解説します。
- 人手不足を解消することができる
- スキルや意欲のある人材を獲得できる
- 労働環境を改善できる
- 組織のダイバーシティを確保できる
人手不足を解消することができる
一つ目のメリットは、人手不足を解消できることです。
日本では人口減少や少子高齢化の影響で、人手不足が深刻化しています。建設分野においても人材不足の影響を受けており、なかなか施工管理職の人材を採用できないとお悩みの企業も多いです。
日本人をなかなか採用できない場合には、外国人材を採用することで人手不足を解消できます。ぜひ外国人材の採用を検討してみてください。
スキルや意欲のある人材を獲得できる
外国人材を採用すると、ただ人手不足を解消できるだけでなく、すでに一定のスキルを持った意欲のある人材を採用できることも魅力です。
外国人材が「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を得るには、海外の大学・専修学校で業務に関連する内容を専攻しているか、10年以上の実務経験が必要です。たとえば、施工管理の場合には建築工学や土木工学を専攻しているといった学歴が求められます。また、業務経験については、施工管理や建設管理に従事していることが条件に含まれます。そのため、ある程度の知識やスキルがある状態から教育することが可能です。
そして、わざわざ日本で働くために在留資格を得て来日する外国人材は、日本企業で働くことに対するモチベーションが高く、仕事にも意欲があることが多いです。やる気のある人材と働くことで、職場も活性化するでしょう。
労働環境を改善できる
外国人材を採用することで、労働環境を改善することができます。
たとえば、外国人材を受け入れる際には、日本語能力が高くない方でも働きやすいように、業務のマニュアル化や教育研修の整備などが進められます。また、外国人材の部下を持つことで、上司は本人に伝わりやすい指導を心掛けるようになります。
このように、外国人材を受け入れるために労働環境を整備していくことで、自然と日本人にとっても働きやすい職場ができるのです。
組織のダイバーシティを確保できる
外国人材を採用すると、組織のダイバーシティを確保することができます。
近年、日本ではダイバーシティ経営が求められています。ダイバーシティ経営とは、多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営のことです。
外国人材が組織に加わることで、これまで当たり前とされてきた慣習や価値観が疑われ、斬新な発想やアイデア、課題解決策が生まれるきっかけになります。また、生産性の向上や競争力の強化にもつながり、長期的に企業全体にプラスの影響を与えることができるのです。
施工管理で外国人材を採用する際の注意点
施工管理で外国人を採用する際に注意しておくべきことはあるのでしょうか?ここでは、施工管理で外国人材を採用する際の注意点について解説します。
- 雇用に伴いさまざまな届出や手続きが必要になる
- 在留資格やビザの発行が許可されない可能性がある
- 異文化理解が求められる
- やさしい日本語を用いたコミュニケーションが必要
雇用に伴いさまざまな届出や手続きが必要になる
まず注意したいのが、外国人の採用に伴うさまざまな届出や手続きです。
外国人材を採用する際には、在留資格やビザの申請・届出手続きが必要です。具体的には、出入国在留管理庁に在留資格を申請し、採用が決定した後は、ハローワークへの「外国人雇用状況の届出」も行う必要があります。
人事担当者にはこれらの知識が求められるほか、手続きには時間と手間がかかる点を理解しておく必要があります。
在留資格やビザの発行が許可されない可能性がある
外国人材を採用する際には、在留資格やビザの発行が許可されないリスクも考慮する必要があります。
在留資格を得るためには、出入国在留管理庁に申請を行う必要があります。また、在外公館にもビザの申請が必要です。出入国在留管理庁と在外公館による審査に通過しなければ、外国人材は入社することができません。
たとえ必要な要件を満たしていたとしても、これらの機関の審査結果によっては、在留資格やビザの発行が許可されない可能性もあります。外国人材採用には一定のリスクがあることを頭に入れておきましょう。
異文化理解が求められる
外国人材を採用したら、職場で異文化理解や異文化コミュニケーションのための教育研修を実施し、外国人材と日本人が協働できるように工夫する必要があります。
どれだけ外国人材側に高い就業意欲があったとしても、受け入れる職場で外国人材への差別が横行していれば、実力を発揮することはできません。外国人材を採用する際には、日本人に対する異文化理解研修をしっかり行い、外国人材を受け入れる土壌を作る必要があります。
やさしい日本語を用いたコミュニケーションが必要になる
外国人材に対して「やさしい日本語」を用いたコミュニケーションができるよう、日本人を教育することも必要です。
外国人材と業務を円滑に進めるためには、本人にとって伝わりやすい日本語を使う必要があります。このような状況で活用したいのが「やさしい日本語」です。
「やさしい日本語」とは、難しい言葉を言い換えるなど、相手に配慮したわかりやすい日本語のことです。外国人材を受け入れる際に「やさしい日本語」研修を導入することで、外国人材とのコミュニケーションが円滑化し、業務も進めやすくなります。
詳しい内容については、出入国在留管理庁と文化庁が発行するガイドラインを参照してみてください。
参照元:在留支援のためのやさしい日本語ガイドラインほか(出入国在留管理庁・文化庁)
まとめ
施工管理の人手不足を解消するために、外国人材を採用することは効果的です。一方で、外国人採用に慣れていない企業の人事担当者を中心に「在留資格の手続きの仕方がわからない」「どんな教育研修をすればよいのだろう」と悩まれる方も多いことでしょう。
明光グローバルでは、外国人材の紹介から、在留資格の手続き、教育研修、職場への定着まで一貫したサポートをすることが可能です。外国人材の採用や教育に興味がある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。