外国人材の退職は、日本人従業員とは異なる特有の手続きや注意点が多く、企業の人事担当者や管理者にとって悩みの種となることがあります。また、手続きの漏れや遅延は、企業や退職する外国人材双方に不利益をもたらす可能性もあるため、注意が必要です。
今回は、外国人材の退職時に企業と本人が行うべき具体的な手続きから、退職後の在留資格や生活に関する注意点、企業が知っておくべき退職対応のポイントを解説します。スムーズに退職手続きを進めたいご担当者様は、ぜひご一読ください。
外国人の退職時に必要な手続き
外国人材の退職は、企業と本人双方ともに手続きが必要になります。企業側と外国人材本人がそれぞれ行うべき手続きを把握して、退職時にトラブルにならないように気を付けましょう。
参照元:特定技能所属機関(受入れ企業・事業主の方)による随時届出 提出資料一覧表(出入国在留管理庁)
企業側が行うべき手続き
外国人材が退職する際、企業には社会保険・雇用保険の資格喪失手続きや、関係省庁への各種届出を速やかに提出しなくてはなりません。公的な手続きを怠ると、企業が行政指導を受けたり、退職する外国人材が不利益を被ったりする可能性があります。主な手続きは次のとおりです。
提出先 | 主な手続き |
---|---|
ハローワーク | ・雇用保険被保険者資格喪失届の提出 ※提出後、離職票が発行されます ・在留カード番号記載様式の提出 ・外国人雇用状況届出書(離職)の提出 |
健康保険組合 全国健康保険協会 | ・健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届の提出 ・健康保険被保険者証の回収と返却 ※回収できない場合は、健康保険被保険者証回収不能届の提出 |
市区町村 | ・住民税の未払いがある場合の処理 ※一括徴収または本人による直接納付の手続き ・給与所得等に係る特別徴収税額の納期の特例に関する届出書の提出 ※本人が直接納付する場合 |
出入国在留管理局 | ・中長期在留者の受入れが終了した場合の届出 ※契約終了から14日以内 ・受入れ困難となった場合の届出(特定技能のみ) ※受入れ困難となってから14日以内 |
以上の手続きは一例ですが、必要な書類を不備なく期限内に提出することが、外国人材の退職手続きには重要です。
外国人本人が行うべき手続き
退職する外国人材自身も、日本での在留資格を適切に維持し、法律を守って活動を続けるためにはいくつかの手続きを行わなければなりません。手続きを怠ると在留資格が取り消されたり、最悪の場合は不法滞在とみなされたりする可能性があります。
企業としては、退職する外国人材に手続きの情報を提供し、スムーズに進められるようサポートすることが推奨されます。主な手続きは次のとおりです。
提出先 | 主な手続き |
---|---|
出入国在留管理局 | 必須:所属(契約)機関に関する届出 ・内容:勤務していた会社を退職したことを届け出る ・期限:退職日から14日以内 状況に応じて必要な申請 ・退職後も日本で就職活動を続ける場合 在留資格を「特定活動(就職活動)」へ変更する ・新しい就職先が決まっている場合 新しい仕事内容に合った在留資格への変更申請を速やかに行う |
これらの手続きはあくまでも一例ですが、企業や外国人材の状況を踏まえて、適切な手続きが必要になります。
外国人が退職した後の在留資格と生活に関する注意点
外国人材が退職した後も日本での生活を続ける、もしくは母国へ帰国する場合、在留資格の維持や各種清算手続きなどが必要になります。ここからは次の3つの注意点について解説します。
- 在留資格の失効を防ぐためにすべきこと
- 失業保険を受け取る際の注意事項
- 帰国時の脱退一時金や税金精算
参照元:
在留資格の失効を防ぐためにすべきこと
退職後も日本に在留を希望する外国人材は、在留期限の失効を防ぐために、速やかに手続きを行う必要があります。就労目的の在留資格の場合、特定の企業で就労することを前提としているため、3ヶ月以内に再就職か別の在留資格に移行しないと、在留資格の取消対象になります。在留資格の失行を避けるためには次のポイントに注意しましょう。
- 退職後14日以内に「所属機関に関する届出」を出入国在留管理局へ届け出る
- 速やかに転職活動を行い、新たな就職先を探す
- 状況に応じて在留資格を変更する
例:特定活動(就職活動)など
受け入れ企業には、在留資格の情報提供と手続きの重要性を伝え、サポートすることが推奨されています。
失業保険を受け取る際の注意事項
外国人材も一定の条件を満たせば、日本の失業保険(基本手当)を受給できます。ただし、いくつかの注意点があります。主な受給資格は次のとおりです。
- 被保険者期間:原則、離職日以前2年間に雇用保険の加入期間が12ヶ月以上あること
- 就労の意思と能力:働く意思と能力があり、積極的に求職活動を行っていること
- 適切な在留資格:「特定活動(就職活動)」など、日本で就職活動を継続できる在留資格を保有していること
失業保険を受給中に現在の在留期間が満了する場合、失業状態のままでは元の在留資格の更新は難しく、許可要件を満たした在留資格への変更手続きが必要になる点に注意しましょう。
帰国時の脱退一時金や税金精算
外国人材が退職後に母国へ帰国する場合、日本で納めた年金保険料の一部が戻ってくる「脱退一時金」の請求や、未納の住民税の精算など、清算手続きが必要です。主な手続きとポイントは次のとおりです。
主な手続き | ポイント |
---|---|
年金の脱退一時金請求 | ・国民年金または厚生年金の被保険者期間が6ヶ月以上ある ・老齢年金の受給資格を満たさずに出国する ・日本出国後2年以内に請求する |
住民税の精算 | ・前年の所得に基づき課税されるため、年の途中の帰国でも支払い義務が残ることがある |
その他生活関連の解約・精算 | ・銀行口座の解約 ・賃貸契約の解除 ・公共料金(電気、ガス、水道、携帯電話など)の精算 |
企業はこれらの手続きについて情報提供し、外国人材がトラブルなく帰国できるようにサポートすることが望ましいです。
企業が知っておきたい外国人退職対応のポイント
外国人材の退職は、日本人従業員の場合と異なる配慮や対応が求められることがあります。文化や言語の違いからコミュニケーションが上手く行かなかったり、在留資格に関する手続きのサポートが必要になったりすることも少なくありません。外国人材特有の事情を理解することで、退職につながるトラブルを未然に防止できるでしょう。
外国人材が退職や離職を考え始めると、日々の行動や態度に変化が現れることがあります。兆候を早期に察知することは、企業が対策を講じるために重要です。具体的な予兆の例としては次のようなものがあります。
- 業務への態度の変化:以前と比べて熱意が感じられない、指示されたことだけを淡々とこなす
- コミュニケーションの減少:周囲との会話が減る、以前よりよそよそしい態度になる
- 休みがちになる:理由の曖昧な欠勤や有給休暇の取得が増える
- スマホの使用頻度が多くなる:休憩中や業務後、頻繁にスマホで誰かと連絡を取っている
これらの変化に気づいたら、まずは本人とコミュニケーションを取り、話を聞くことが重要です。早い段階で対応することで、問題解決や退職を思いとどまる可能性もあります。
まとめ
外国人材の退職は、企業と本人双方に様々な手続きが必要です。企業側は社会保険や雇用保険の手続き、関係省庁への届出を期限内に正確に行うことが求められます。外国人材本人も、在留資格の維持や変更、帰国時の税金・年金精算など、多くの手続きを自身で行わなければなりません。
また、企業は外国人材の退職の予兆を早期に察知し、適切なコミュニケーションをとることで、円満な退職とトラブル防止につながるでしょう。外国人材の退職に関する手続きや対応は複雑であり、専門的な知識が求められる場面も少なくありません。お困りの際は、専門機関に相談することも有効な手段です。