2019年4月に、人手不足が深刻とされている業種で外国人材が働くための在留資格「特定技能」が創設されました。
その中に「宿泊」という資格があります。この資格を利用すれば、外国人材が宿泊施設におけるフロント、企画・広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービスの提供に係る業務を行うことができます。
これまではこの資格を利用して日本で就労できるのは最大5年まででしたが、令和5年6月に「特定技能2号」の対象分野が拡大され、宿泊業でも2号への移行と資格の更新さえできれば在留の上限がなくなりました。また、2号では家族の帯同も認められます。これにより、今後特定技能の資格で宿泊業に従事する外国人材も増えていくことが見込まれます。
本記事では、宿泊業において特定技能ビザを持つ外国人材を採用した場合どのような利点があるのか、また注意すべき点についてもご紹介していきたいと思います。
1. 特定技能ビザで採用できるのはどんな人材?
現在特定技能ビザを取得して日本で働いている外国人材の多くは、ベトナムなどの東南アジア出身者が中心です。技能実習生として来日し、実習修了後に特定技能に資格を移行して働き続ける場合や、留学生として来日し日本語学校等を卒業後に特定技能ビザを取得し働き始める場合が多いようです。
いずれにせよ、現状では技能実習生と違い初めて来日するというパターンは少なく、ある程度日本の生活に馴染んでおり日本での実習やアルバイト経験がある人材が多くなっています。
また、特定技能「宿泊」のビザを取得するためには、日本語の試験と「宿泊業技能測定試験」に合格する必要があります。
日本語の試験に関しては、最も知られている「日本語能力試験」でいうと「基本的な日本語を理解することができる」(日本語能力試験HPより)レベルにあたるN4以上が必要です。
ただし、この試験は「読む」、「聞く」能力のみで「話す」「書く」能力を測る問題はありません。
「宿泊業技能測定試験」は学科試験と実技試験に分かれており、学科試験で出題される内容は
- フロント業務
- 広報・企画業務
- 接客業務
- レストランサービス業務
- 安全衛生その他基礎知識 (身だしなみやマナーなど)
となっています。
実技試験では、宿泊施設の従業員という想定で、上記の学科試験のカテゴリーに関する質問に受け答えをします。実際に宿泊施設で働く場面で適切な対応ができるかどうか判定するための試験です。
学科試験、実技試験それぞれで65%以上の正答率が必要です。
つまり、特定技能「宿泊」の資格を持つ外国人材は、少なくとも基本的な日本語を理解でき、宿泊業の基本的な業務内容についての知識や基本的な受け答えができる能力を持っていますが、実務経験はない場合も多いです。
2. 任せられる業務
特定技能「宿泊」の資格を持つ外国人材が従事できるのは、宿泊施設におけるフロント、企画・広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービスの提供に係る業務となっています。
宿泊業において人手不足がもっとも深刻と言われていた給仕係に従事することも可能です。ただし、どれか一つの業務のみに従事させることは認められておらず、在留期間の中でそれらの業務にまんべんなく従事する必要があります。
一方、特定技能の資格創設以前から外国人が日本の宿泊施設等に就職する際に定番となっている資格は、「技術・人文知識・国際業務」です。こちらは四年制大学を卒業して就職する留学生等が取得する在留資格です。
この資格を持っている外国人材は比較的日本語能力が高く、学んできた知識や仕事の経験、母国の文化や言語に関する知識と関連する業務に従事することができます。高い語学能力や接客が求められるフロントやオフィスワークなどに従事できるのはこの資格です。この資格の許可は年々厳しくなっており、宿泊業では採用の競争率が高くなっています。
ただ、「技術・人文知識・国際業務」の資格では配膳や清掃、ベッドメイキングなどの単純労働を行うことができません。その点、特定技能の「宿泊」であればそのような単純労働の人手が足りない場合にも対応することができる点がメリットの一つと言えます。
また、配膳や調理であれば特定技能「外食」の資格でも行うことができます。
3. 採用後の日本語学習サポート
人材不足を補う即戦力として活用され始めている特定技能資格ですが、初めから日本人と同じようには業務を任せられない場合ももちろんあります。特に、宿泊業ではフロントなどの接客業務が多いため、求められる日本語能力が高くなる場合があります。このような場合は、できるだけ早く日本語能力を高め、戦力になってもらうことが必要になるでしょう。
そのためには、自社内での研修だけではなく外部の日本語教育サービスの利用や、教材購入費用の援助など学習のサポートなども考えられます。また、最近ではオンラインの日本語教育サービスを利用する企業も増えてきています。管理体制や予算、外国人材の日本語レベルなどを考慮した上で、どんな方法が合っているのか見極めることが大切です。
また、いずれの場合にしても、導入だけではなく、その後の学習が効果的に行われているかどうかの確認やモチベーション維持のための声掛け、他の社員と十分な交流機会を設けることなど、受け入れ企業としてのサポートを続けることが肝心です。
4.まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は特定技能ビザを利用して外国人材を採用する際のメリット・注意点などについてご紹介しました。
特定技能ビザはまだまだ創設されて間もない資格であり、今後この資格によって宿泊業に従事する外国人材の確保がしやすくなっていくかもしれません。今後も改定や流れが変わっていく可能性が大いにあるので、外国人材の採用をお考えの企業の方はぜひ注目してみてください。