特定の産業分野における人手不足解消のため、2019年から運用が始まった特定技能ビザ。人手不足が深刻化する「介護」も対象分野の一つとなっています。
必要な要件を満たせば、介護福祉士の資格がなくても介護の業務に従事することができます。
この記事では、特定技能「介護」について解説しながら、採用の流れや現状についてご紹介します。
1.特定技能「介護」はどんな業務ができる?
特定技能「介護」の人材が従事できるのは以下の業務です。
- 身体介護等(利用者の心身の状況に応じた入浴、食事、排せつの介助等)
- 1に付随する支援業務(レクリエーションの実施、機能訓練の補助等)
- 日本人が通常従事することとなる関連業務(掲示物の管理、物品の補充等)
このような幅広い業務に従事できます。
ただし、訪問介護等の訪問系サービスにおける業務は対象外なので注意が必要です。また、掲示物の管理や物品補充などの関連業務をメイン業務とすることもできません。
特定技能の外国人材は、ある程度の技能と日本語能力を身に着けている人材であるため、受け入れ後すぐに人員配置基準に算定することができます。また、技能実習生はできない一人での夜勤も可能です。
2.特定技能「介護」の試験とは?
特定技能「介護」を取得するには以下の3つの試験に合格する必要があります。
(1)介護技能評価試験
「介護業務の基盤となる能力や考え方等に基づき、利用者の心身の状況に応じた介護を自ら一定程度実践できるレベル」を確認するために、学科試験と実技試験が課されます。
試験はコンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式です。受験者は、ブースでコンピューターの画面に表示される問題をもとに、画面上で解答します。
※介護技能評価試験サンプル問題(厚生労働省Webサイトより)
(2)介護日本語評価試験
「介護現場で介護業務に従事する上で支障のない程度の水準」を確認するために、「介護のことば(5問)」、「介護の会話・声かけ(5問)」、「介護の文書(5問)」に関する試験が行われます。
(厚生労働省「介護日本語評価試験」試験実施要領より)
こちらも技能試験と同じくコンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式です。
※介護日本語評価試験サンプル問題(厚生労働省Webサイトより)
(3)「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」
「生活と業務に必要な日本語能力」を確認するため、「国際交流基金日本語基礎テスト」に合格するか、日本語能力試験でN4以上を取得することが求められます。
また、「介護分野の技能実習2号を修了している」「EPA介護福祉士候補者としての在留期間(4年間)を満了している」「介護福祉士養成施設を修了している」といった場合には、一定の専門性・技能を有すると判断され、試験が免除されます。
3.特定技能人材の雇用の流れ
特定技能「介護」の外国人を雇用したい事業所は、以下の条件を満たす必要があります。
(1)介護等の業務を行っている事業所であること
1号特定技能の外国人を受け入れるには、実務経験として認められる介護等の業務に従事させることができる事業所でなければなりません。
(2)1号特定技能外国人の人数枠は、事業所単位で、日本人等の常勤の介護職員の総数を超えないこと
特定技能「介護」は他の分野と違い、受け入れの人数制限がある点に注意する必要があります。例えば、受け入れる事業所の常勤介護職員が10名の場合、受け入れ人数は10名が上限となります。
(3)介護分野における特定技能外国人の受入れに関する協議会に加入し、必要な協力を行うこと
初めて介護分野の1号特定技能外国人を受け入れた場合は、入国後4か月以内に協議会に加入しなければなりません。加入しない場合や、必要な協力を行わない場合には、特定技能外国人の受け入れができなくなります。
(4)特定技能1号外国人への支援を適切に実施すること
特定技能1号外国人の受け入れるために、生活上の支援に関する計画を提出し、実施しなければなりません。ただし、支援の計画と実施は登録支援機関に委託することも可能です。出入国在留管理庁の「登録支援機関登録簿」から委託したい機関を探すことができます。
4.特定技能「介護」人材雇用の流れ
雇用のステップは、雇用する人材が国内にいるか、国外にいるかによって異なります。
(1)国内にいる人材を雇用する場合
- 募集・面接
- 雇用契約の締結
- 支援計画の作成
- 在留資格変更許可申請
- 配属
(2)国外にいる人材を雇用する場合
- 募集・面接
- 雇用契約の締結
- 支援計画の作成
- 在留資格認定許可申請
- ビザ申請
- 入国・配属
このようなステップで雇用します。国内から雇用する場合は「在留資格変更許可申請」、国外からの場合は「在留許可認定許可申請」と「ビザ申請」が必要な点に注意が必要です。
4.在留資格「介護」ビザへの移行
特定技能ビザの期間は最長5年です。もしそれよりも長く働いてもらいたい場合は、在留資格「介護」に移行するという手段があります。在留資格「介護」には更新の制限がありませんが、介護福祉士の資格取得が必須となります。
以下は、特定技能ビザから在留資格「介護」に移行するために必要なポイントです。
- 3年間の実務経験を積むこと
- 実務者研修を修了すること
- 介護福祉士の資格を取ること
特定技能の5年間の間に、上記の条件をクリアしなければなりません。
5.介護業界の特定技能人材の現状
では、特定技能「介護」の現状についても見ていきましょう。
(1)介護分野で最も多い国籍はベトナム
日本国内に滞在する特定技能人材は130.915人となっており、そのうち約12.3%にあたる16,081人が「介護」分野の人材です。
国別で見ると、ベトナムが最も多い5,958人、その次にインドネシア、フィリピンと続きます。
(2)試験の機会が多く、合格者が多いのはフィリピン
国内に滞在する特定技能「介護」人材の数としては3位のフィリピンですが、実は現地での試験実施回数が多く受験者も日本国内試験より多いため、人材が安定供給されています。ただ、独自ルールが多いため、雇用する際は手続きなどが複雑です。
フィリピン国籍の人材を受け入れるためには、フィリピン海外雇用庁(POEA)という機関を経由しなければなりません。採用予定の企業は、POEAの海外出先機関である駐日フィリピン共和国大使館海外労働事務所(POLO)に対し手続きを行い、認可される必要があります。
このように、外国人材を雇用する際は国によって異なるルールを確認しましょう。
6.まとめ
いかがでしたか?
今回は、特定技能「介護」ビザや雇用の流れなどについてご紹介しました。
人手不足が深刻化する介護業界にとって、即戦力である外国人材は大きな希望になっています。他の在留資格と比べてビザが取得しやすく、受け入れやすい特定技能人材。ぜひこの制度を利用して、介護の現場に人材を確保していきたいですね。
【参考】
・出入国在留管理庁「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領 -介護分野の基準について」(法務省・厚生労働省編
・出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック」
・厚生労働省「介護技能評価試験」試験実施要領
・厚生労働省「介護日本語評価試験」試験実施要領
・出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数(令和4年12月末現在)」