特定技能ビザで採用する外国人材の日本語力を高める方法

特定技能1号のビザを取得するためには、日本語能力試験N4レベル、つまり初級後半以上の日本語試験に合格していることが必須条件です。N4レベルの目安としては、「基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる。」「日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる。」(参照:日本語能力試験公式ウェブサイト)とあります。

ただし、試験では「話す」能力を測るテストはないため、同等のスピーキング力を持っているとは限りません。また、このレベルは職場で話される自然なスピードの日本語を理解できるレベルには達していないため、円滑なコミュニケーションを取れるようになるためには企業で働きながら日本語能力のブラッシュアップをしていくことが必要になります。

もちろん外国人社員自身も日本語能力を向上したいと考えてはいるものの、慣れない業務をこなしながら自分で学習時間や費用を捻出するのは難しい場合が多いです。そこで、企業の学習支援が必要になるのです。日本語学習のサポートが手厚いということは採用の際に企業のアピールポイントにもなり、優秀な外国人材を採用することにも繋がります。

また、外国人1号特定技能外国人を雇用する企業は、外国人が円滑に日本で働き、生活していくために必要な日本語を学習する機会を提供することが求められています。そして、日本で生活していく上で必要な日本語は、継続的に学習してはじめて習得できるものであり、学習機会も継続的に提供されることが求められます。1回やって終わりというわけではなく、雇用している間は定期的に行っていく必要があります。

では、特定技能ビザで採用する外国人材の日本語能力を効果的に高める方法にはどんなものがあるでしょうか。本記事では、大きく三つの方法について見ていきます。

1. 日本語教育機関を利用する

日本語能力を高める方法としてまずイメージするのは、社外の日本語教育機関を利用して日本語教育を受けさせることではないでしょうか。ここでは、3種類の日本語教育機関やサービスをご紹介します。

①日本語学校

ここでいう日本語学校とは、正確には法務省から告示校という指定を受け、在留資格「留学」の取次を認められている日本語教育機関を指します。これらは主に在留資格「留学」の外国人の方を対象とした日本語教育を担う機関です。

留学生には来日時の日本語要件があるため、全くの日本語ゼロレベルの方の入学は少ないですが、初歩的な文字学習を含めて初級レベルの文法、語彙から教育を始め、最長およそ2年間、平日4時間、週20時間の学習を提供するのが一般的です。日本語学校に在籍する多くの留学生は、専門学校や大学に進学することを目的としているため、ほとんどの日本語学校は進路指導を含めた留学教育を専門としています。

また、多くの留学生にとって来日して初めて所属する機関になるため、日本のルール・マナーや生活習慣に馴染んでいくための生活指導も行われます。

企業で働く外国人材がこのような日本語学校で学ぶ場合は、それぞれのニーズや学校のシステム等によって主に以下の3通りのパターンが考えられます。

A:留学生と同じクラスに入る
B:留学生とは別の日本在住者向けやビジネスコースのクラスに入る
C:プライベートレッスンを受ける

Aの場合は授業内容が留学生向けの内容になっていることが多く、ビジネス場面に対応した表現を学ぶ機会が少なかったり、授業時間内に進学指導の時間が発生したりと、ニーズに合わない部分が発生することが考えられます。

Bの場合は、留学生クラスとは違い進学指導の必要がなく、生活する上で実用的な内容が多くなります。ただし、クラスレッスンであることに変わりはないため内容が個々のニーズに完璧に合致することは難しいでしょう。

Cの場合はクラスレッスンに比べて費用が高額になる場合が殆どですが、その分個人のニーズに合った授業内容を組んでもらうことができ、マンツーマンのレッスンでは発言のチャンスも多いため、学習効率は高いと言えます。

授業時間に対する学習効果を考えれば、プライベートレッスンが最適と言えるでしょう。一方、クラスレッスンには費用を抑えること以外に日本語を学習する仲間ができ、授業外での日本語でのコミュニケーションが期待できると言うことが挙げられます。

②企業向け日本語研修サービス

留学生をメインにした日本語学校とは異なり、企業向けの日本語研修を専門に提供するのが企業向け語学研修機関です。このような日本語教育機関では、主にビジネス日本語教育に特化した日本語研修を専門に行っている場合が多いです。こちらは人数の多いクラスレッスンではなく、少人数のグループレッスンやプライベートレッスンがメインになります。日本語学校に比べ、よりビジネスパーソンのニーズに合ったレッスン内容が期待できます。

特に大規模な語学研修機関では、業務効率化のために企業と直接コミュニケーションをとる営業部門と、カリキュラムやレッスンに関する業務を担当する教務部門が分かれていることが一般的です。これにより、適切なコミュニケーションが取れ、企業の細かいニーズに対応できる体制が整備されています。語学研修機関が営業部門と教務部門の連携が適切であるかどうかが、企業のニーズに即した語学研修機関である条件の一つでもあります。

③個人向け語学学習ツール近年は様々な分野の学習アプリや動画学習などのeラーニング、格安のオンライン日本語会話レッスンなど、コストの抑えられる学習形態の各種サービスが豊富に揃っています。
企業や外国人社員個人の目標が明確に定まっており、学習に関するモチベーションがすでに高い状況にあれば、空いている時間にいつでも取り組める個人向けツールは有効と言えるでしょう。

一方、専門の日本語教師のレッスン等がサービスに含まれないことも多く、双方向的な会話練習ができないため、それだけでは会話の上達に関しては十分とは言えません。また、教師と直接やりとりをして個人の成果や課題などを共有できるレッスンと比べると、モチベーションの維持が難しい傾向があります。学習記録が確認できたり、定期的なテストを行いその結果を成績表として発行できたりするサービスなどもあるので、雇用している企業側が学習状況を把握・管理するなど、モチベーションの維持に務めることが必要になってきます。eラーニングなどのオンライン教材を基本としつつ、補助的に日本語教師の研修が受けられるというようなサービスを利用する方法もあります。

どのようなツールを使うにせよ、導入して本人に任せきりでは日本語能力の向上はあまり期待できません。企業側もしっかりと学習状況を把握し、ツールの見直しやサポートを行うことが重要です。

2. 自社で研修を行う

二つ目は外国人材の受け入れを行う企業が研修を行う方法です。

企業が研修を行うメリットとしては、企業側で学習の時間を自由に設定できることが挙げられます。入社後、業務にも慣れないなか勤務時間外で学習時間を確保するというのは難しいので、業務の都合に合わせて勤務時間内に日本語研修が行えると言うのは大きな利点です。また、学習状況や効果などを企業内で把握しやすいという点もあります。

自社で研修を行う場合、自社の人材が学習指導を行うパターンと、外部から講師などを呼ぶパターンが考えられます。しかし、日本語教育の全てを自社の人材で行おうとすると、かなり難易度が高くなります。外国人に対する日本語教育は、レベルに合わせて段階的に行っていく必要があります。そのため、まずは個々人のレベルや課題を見極め、それに合わせたカリキュラムを組んでいかなければなりません。

また、ことばはその国の歴史や文化の影響が大きく受けているため、必ずしも母国語と対応しているとは限りません。それぞれのニュアンスの違いを教えるには一定の専門スキルが必要です。企業主体で教育するのであれば、専門の教師やシステムを利用した方が効果は期待できるでしょう。

3. 日本人社員との交流機会を確保する

語学学習において一番のモチベーションとなるのは、使用機会が頻繁にあることです。日本で働いていればもちろん日本語の使用機会は多いと思われるかもしれませんが、毎日決まった業務をこなしているだけでは、特定の表現しか使わなかったり、業務で関わる社員以外との交流機会がなかったりする場合が多いのです。そのような場合、せっかく新しい表現を学んでも実際に使う機会が少ないため、学んだこともすぐに忘れてしまい、日本語の運用能力が上がって行きません。そして、人間関係がうまく築けなかったり、伝えたいことがあってもうまく伝わらなかったりした結果、仕事に対するモチベーションや満足度の低下にも繋がりかねません。

では、どのようにして交流機会を確保すればいいのでしょうか。ある企業では、外国人社員の日本語学習発表会を行っているという事例があります。普段は業務以外で日本語を話す機会が少ない、他部署の社員との交流も少ないため、発表会に日本人社員を招いて日本語のスピーチや母国の紹介などを行っています。発表に向けて準備することによって日本語学習のモチベーション維持にも繋がり、新たに覚えた表現を使う機会が生まれ、あまり関わりがなかった社員と話すことでその後の交流も活性化されます。

もちろん、交流会などの時間を確保することが難しいという企業もあるでしょう。しかし、数ヶ月に一回でもそのような機会を設けることで、日本語学習のモチベーションにつながり、社員同士のコミュケーションが増えるということを考えれば、試してみる価値はあるのではないでしょうか。

4. 外国人材のレベルに合った日本語を使うよう心がける

特定技能ビザで働く外国人材の多くは、入社当社は初級〜中級レベルです。日本人と同じ業務を行うとしても、日本人と同じ日本語を理解することは難しいです。

とにかく自然な日本語の中に身を置いて慣れさせると言う考え方もかるかもしれませんが、英語が苦手な日本人がネイティブ同士の会話を何度聞いても理解できないように、自分のレベルとかけ離れている場合はただの雑音のように感じられてしまうのです。

だからといって、完全に外国人社員の理解できる日本語のみを使う必要はありません。知らない言葉や聞き取れない言葉がいくつかあるという程度であれば、何度も同じ言葉に遭遇したり、誰かに質問したり調べたりすることで理解できるようになります。

具体的にどのようなことを心掛ければいいかについては、こちらの記事をご参照ください。

【外国人に伝わりやすい話し方のコツ】

以上のように、特定技能ビザの外国人材を採用する企業が社員の日本語能力を高めるためにできることはいくつもあります。

大事なことは、雇用する側もされる側も、お互いに関心を持ち、より深いコミュニケーションが取れるよう歩み寄ることです。せっかく母国を離れ日本を選んで働いてくれる外国人材ですから、日本での生活にも仕事にも満足して欲しいものです。

そのためには、日本語能力は非常に大きな要素であり、今後企業がさらに力を入れていくべき課題であると言えます。