特定技能ビザで外国人材を採用するメリット・デメリット

「特定技能」は、日本国内の少子高齢化による労働力不足問題を受け、その対策の一環として2019年に新設された在留資格です。1993年から設置されている「技能実習」制度と比較されることが多いですが、特定技能ビザで外国人材を採用することでどんなメリットやデメリットがあるのでしょうか。本記事では受け入れ企業の目線で、メリットとデメリットをそれぞれ見ていきたいと思います。

特定技能ビザで外国人材を採用するメリット


1. 雇用人数の制限がない

技能実習制度を利用した場合は、受け入れ人数に制限があります。技能実習は日本で技術を身につけてもらうという趣旨であり、適正に実習が行える環境が必要とされるためです。一方、特定技能制度は日本国内の人材不足に対応する目的で導入されたため、介護と建設分野を除き企業毎の受け入れ人数に制限がありません。そのため、企業の状況に合わせて必要な人数を採用することができます。


2. 即戦力の確保が期待できる

特定技能は即戦力となる人材の確保を目的としているため、日本に在留している外国人や日本で就労しようとする外国人が特定技能ビザを取得したければ、試験に合格する、もしくは技能実習で経験を積んでいることが求められます。分野ごとに技能試験があり、初級レベルの日本語能力試験に合格することも必須となっています。

技能実習から特定技能ビザに移行するケースも多く、その場合は日本で数年の経験を積んでいるため、就労開始後すぐに戦力となることが期待できます。


3. 受け入れ時の申請業務が少ない

特定技能ビザで外国人材を雇用する場合、日本人を雇用する場合に比べると多少追加の手続きが必要になります。ただ、技能実習制度を利用した場合と比べると申請業務はそれほど多くありません。

では、技能実習制度(団体監理型)を利用した場合と特定技能制度を利用した場合に必要な申請業務を比較してみましょう。

まず、技能実習制度(団体監理型)を利用して外国人材を採用する場合には、以下のような流れになります。

  1. 企業が管理団体へ求人申し込み
  2. 管理団体が契約している外国の送り出し機関へ求人募集、選考
  3. 雇用契約を結ぶ
  4. 技能実習計画の認定申請、交付
  5. 在留資格認定証明書交付申請、交付
  6. ビザ申請、発給
  7. 入国、監理団体による講習
  8. 企業へ配属、技能実習開始

技能実習ではほとんどのケースがこの「団体監理型」にあたり、企業から直接募集・採用するのではなく、監理団体が企業と候補者の間に入る形になります。そのため、企業は監理団体と協力して技能実習計画を立て、適切な実習が行える機関であることを「外国人技能実習機構」に示します。また、技能実習生が海外から新たに来日するにあたり、受け入れ機関がビザ関連の申請を代理で行う必要があります。

一方、日本に在留している外国人が特定技能ビザで就労開始するまでの流れは以下のようになります。

  1. 該当分野の「特定技能」試験に合格(または「技能実習2号」を修了)
  2. 企業が雇用契約を結ぶ(試験合格前に内定も可能)
  3. 特定技能外国人の支援計画を策定する
  4. 在留資格変更許可申請
  5. 「特定技能1号」へ在留資格変更
  6. 就労開始

3.に関して、受け入れ機関は「支援計画」を作成し地方出入国在留管理局に提出する必要があります。「支援計画」の概要についてはこちらの表をご覧ください。

出典:「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」出入国在留管理庁

また、海外で特定技能の試験を受け新たに来日する外国人を受け入れる場合は、「在留資格変更許可申請」ではなく「在留資格認定証明書交付申請」となり、その後交付、ビザ申請という流れになります。

このように、技能実習と特定技能では受け入れまでに必要な手続きが異なります。比較すると、特定技能制度の方が申請業務は簡素だと言えるでしょう。

4. 業務に関する法的制約が少ない

企業が人材を雇用する際に重要なポイントの一つとして、一人の人材に任せられる業務の範囲が挙げられます。少数精鋭の組織であればあるほど、どれだけ臨機応変に業務をこなしてもらえるかというのが鍵になってきます。

技能実習生として就労する場合は、特定の技術を習得するという趣旨のため、業務内容が細かく分けられており、その範囲内で業務を行わなければなりません。一方、特定技能は日本人社員のように付随業務も行うことができ、比較的自由度が高いと言えます。その点は、人手不足の企業においては大きなメリットになるでしょう。


5. 給与以外のコストが安い

外国人材を受け入れる場合、給与や待遇に関してはもちろん不当に低く設定することは認められていません。同じ職場、同じ業務をしている日本人がいる場合は同等の給与を支払わなければなりません。それに加え、日本人を採用する場合

まず、技能実習生を受け入れようとする場合、技能実習開始までに事前訪問費用、入国準備費用、入国後講習中の費用が、実習開始後にも監理団体や送り出し機関などに支払う費用等がかかります。

〈事前訪問費用〉 約30万円(職員二人、二日間の場合)

送り出し機関の視察や面接のため現地へ出張する際にかかる費用です。ZOOM面接等を行う場合にはかからないこともあります。

〈入国準備費用〉 一人あたり約20〜30万円 

在留資格の申請費用、監理団体への出資金等、また本人の渡航費、保険料等も受け入れ機関の負担となります。

〈入国後講習中の費用〉 一人あたり約15万円

入国してから企業に配属されるまでに、原則2ヶ月は日本語講習を受けることになります。その研修費や期間中の本人の生活費用なども受け入れ機関が負担します。

〈実習開始後の費用〉一人あたり約80万円

団体監理型で技能実習生を受け入れた場合は、監理団体へ支払う管理費や送り出し機関へ支払う送り出し管理費、また技能実習生が帰国する際の費用等がかかります。

これらを合わせると、技能実習生一人当たり約115〜125万円プラス事前訪問費用約30万円ほどかかることになります。

特定技能ビザの外国人材を雇用する場合は、海外から呼び寄せるか国内人材を雇用するか(国内にいる人材を雇用する方が費用が安い)によって費用が大きく変わってきます。

かかる費用としては、人材紹介料・送り出し機関に支払う費用、本人の渡航費、ビザ申請費用等があります。

〈人材紹介料・送り出し機関に支払う費用〉一人あたり約10〜30万円

登録支援機関や人材紹介事業者に募集を依頼する際に発生する費用、また、海外から呼び寄せる場合にはこれに加えて現地送り出し機関に送出費を支払う必要があります。技能試験や日本語試験のための教育費も受け入れ企業が負担することもあり、その場合は計60万円程度送り出し機関に支払うと見積もっておいた方がいいでしょう。

〈本人の渡航費〉一人あたり約10万円

海外から呼び寄せる場合、本人との合意があれば、渡航費を本人負担とすることも可能です。しかし、より多くの人材を集めるためには渡航費を企業側が負担するとした方が、求人として魅力的になることは間違いないでしょう。

〈ビザ申請費用〉一人あたり約15〜25万円+1年毎に2〜3万円

登録支援機関や行政書士に委託した場合にかかる費用です。

これ以外に、法律で定められた支援を登録支援機関へ委託する場合には月2〜3万円が発生します。また、社員寮や毎月の家賃補助など、必ず必要なわけではないものの、より魅力的な求人にするためにかかる費用も考慮しておいた方がいいでしょう。

これらを踏まえて、特定技能ビザの外国人材を採用する場合の費用は、海外から呼び寄せる場合には約70〜120万円、国内人材を雇用する場合は30〜60万円程になります。

このように、特定技能を利用した外国人材を雇用した場合、特に日本国内に在留している外国人材を雇用する場合は技能実習と比べると給与以外のコストが抑えられる場合が多いようです。また、技能実習生が特定技能ビザに移行しそのまま同じ企業で働き続ける場合は、採用コストもかからないため、さらに負担が少なくなります。

特定技能ビザで外国人材を採用するデメリット

1. 海外から採用しようとする場合、試験合格者が少ない

以下の表は令和4年12月末までの特定技能試験の実施状況です。表にあるように、技能試験を1カ国でしか行っていない分野等もあり、そのような分野はやはり受験者数多くありません。技能試験の受験者数は国内153,738名に対し、海外は57,757名に留まっています。合格者も国内83,286名に対し海外は32,404名と、まだまだ海外から呼び込めている人材は十分な数とは言えません。今後の海外試験拡充が期待されます。

出典:「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」出入国在留管理庁

2. 早期退職の可能性がある

「特定技能1号」制度を利用して就労する場合、日本在留期間が最大5年までとなっており、2号に合格しない限り5年を限度に帰国しなければなりません。また、1号では家族の帯同が認められていないため、在留期限前であっても早期に家族のもとへ帰ってしまうケースもあります。

2号ではこういった在留期限がなく、家族(配偶者と子)の帯同も認められているため、2号に移行できるケースが増えれば早期退職も減ることが期待できます。

また、帰国の問題以外にも、「特定技能」制度では外国人材も日本人同様に転職が可能なため、さらに条件の良い職場が見つかり早期に転職してしまう可能性もあります。こういった早期退職を未然に防ぐためには、職場環境や労働条件の改善、密なコミュニケーションなどが必要になるでしょう。

3. 受け入れ前後に企業都合での解雇ができない

特定技能人材の受入機関の要件の一つにこのような規定があります。

テキスト

自動的に生成された説明

テキスト が含まれている画像

自動的に生成された説明

出典:「特定技能外国人受入れに関する運用要領」出入国在留管理庁

特定技能受入機関が、もともと雇用している国内労働者を企業の都合で離職させ、その補填として特定技能外国人を受け入れることは、国内の人材の確保というこの制度の目的に沿いません。そのため、特定技能外国人の採用前後に同じ業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないことが求められるのです。

まとめ

特定技能制度を利用して外国人材を採用する際には以上のようなメリット、デメリットがあります。

まだまだ新しい制度であり、今度改定されていくことが見込まれます。日本での就労を希望する外国人材にとっても、受け入れ企業にとっても、さらに利用しやすい制度になっていくことを期待したいですね。